心拍、呼吸停止をしたとの連絡が入り、手塚と竜崎先生と俺はタクシーでかけつけた。

着いた時、心拍、呼吸ともに回復していたけど、もうそれほど時間が残っていなかった。
もってあと1、2時間。とても辛そうな不二の顔を見て泣きそうになった。
こんなに苦しんでいるのに、なにもしてあげられない自分が嫌でしかたがなかった。
せめて、最後に自分ができることをしてあげたい。でも、こんな自分になにができるというのか。


ここで、ふと不二の部屋にある写真に目がいった。青学テニス部の集合写真、そしての写真。
これを見て、不二にしてあげられることを思いついた。
俺は手塚を廊下に呼び出し頼んだ。
俺らがしてあげられること。それは、不二をみんなに会わせること。

俺が部活のことを話すと必ずテニス部の写真を見ていた。とても穏やかな表情で。

不二は自分の死をおしえたくないと言っていた。でも、おしえたくないのは、みんなを悲しませ
たくなくておしえられないだけであって、会いたくないからではない。むしろ会いたい気持ちで
いっぱいだと思う。だって俺に会えて嬉しいって言ってたから、みんなと会った方がもっと嬉し
いと思う。
でも、時間はなかった。ここからみんなを迎えに行って戻ってくるのは時間がかかりすぎる。
ここで手塚の出番だった。部長命令として不二宅までランニング命令すれば間違いなく来るだろ
うし、往復しなくてもすむ。
俺が不二が病気で死にそうだと言っても誰も信じないと思う。真実だとわからせるのにも時間が
かかりそうだ。


「・・・・というわけでお願い。」
「おまえの判断は間違えていないと思う。わかった。部員の方はひき受けよう。」
「ありがと。恩にきるよ。」
テニス部の方は何とかなりそうだ。あとはだった。電話して拒絶されるかもしれない。
別れて忘れようとしている相手の家に行くのは、普通の人ならできないと思う。
の家はここから意外に近い。部活動にも出ていないから家にいるはずだ。
とにかく考えるよりすぐ実行だ。俺はの家に向かった。









































3分後、の家へと着いた。息を整える時間もおしいので、すぐチャイムを鳴らした。
家の中から返事が聞こえたが、なかなかあらわれない。
こういう時って時間が長く感じられるって言うけど、本当なのかもしれない。
実際まだ息を整えきれていない。3、4秒ぐらいしかたっていないのか。
とにかく心の中では、早く、早くと連呼していた。

「あれ?菊丸くん、どうしたの?めずらしいね。部活はやく終わったの?」
ドアが開き、姿を見て驚いた。まさかエプロン姿で出てくるとは・・・・。
でも、戸惑っている場合じゃない。今は何も考えてはいけない。
今出来る事は1つ。をつれて走ること。

俺は、の腕を掴み走り出した。いったい何が起こっているのか理解できないのか、
抵抗することはなかった。
でも、不二の家に近くになると、動揺を隠せないらしく、腕を自分の方に引き戻そうとした。

「菊丸くん、どこ行くの?私こんな格好だし、弟達の御飯が・・・・。」
「ごめん。もっとはやくから会わせてあげればよかった。」
「どういうこと?」
俺はそれ以上話さなかった。








































「着いたよ。」
不二の家の前にきて、の腕を開放してあげた。力強く握ってたせいか、少し痣になっていた。
「不二に・・・・会って。」
「な、・・・に言っているの?会えるわけないじゃん。」
「これで最後だから・・・・。もう不二に会えって言わないから。」
「ごめん、無理だよ。菊丸くんだってわかってるでしょ?」
「不二はまだのこと好きだよ。ずっと、ずっと、死んだ後も想い続けるって・・・い・・・って。」

気づくと涙が出ていた。言葉はでない。一度泣いちゃうと我慢できないから我慢してたのに。

無理だよ。だってもう会えなくなっちゃうんだよ。しゃべりかけてもくれない、笑いかけてもくれない。

ただの、思い出の人になってしまう。

いやだ。・・・・そんなの認めない。・・・・絶対に、絶対に!

「そんなの嫌だかんね。」
その姿を見て、はどうやらなにか悟ったらしく、不二の家のほうを向くと走って中に入っていった。
俺は泣き潰れた。泣いたってしかたがないのに。泣いたって命が助かるわけでもないのに。
でも、止めることができなかった。

運命には逆らえない。

初めて病気の話を知った時不二が言った言葉だった。

『僕が死ぬことは生まれた時から決まっていて、英二だってそう。生まれたからにはいつか死ぬ。
ただ僕の場合は、死ぬ時期が早く来過ぎただけで他にみんなと違うところはないでしょ?
これが運命だよ。・・・・だから逆らわなかった。病院側は頑固にも手術を勧めた。運命に逆らわせよう
とした。でも、運命っていいことだと思うんだ。
だって、親に会わせてくれた。家族に会わせてくれた。テニスに会わせてくれた。テニス部のみんなに
会わせてくれた。英二に会わせてくれた。そして・・・にも。
だから、運命には逆らわない。こんなに良い思い出をくれたんだ。運命を憎むことはできない。』

不二が死ぬことが運命だったら俺は運命を憎む。不二は良いって言ってたけど、そう思わせる運命が憎い。
そう、そんな運命が・・・・・・・・・























































「あれ?英二先輩。こんなところでなにやってるんっスか?」
頭上から声が聞こえた。どうやらテニス部部員が集まってきたようだった。
学校から不二の家までは結構ある。だいぶ長い間泣いていたことになる。
とにかく涙を拭いて立ち直らないと。この状況じゃまともに話せない。
ここで、頑張らないと・・・。

大きく深呼吸をした。少しだけ気持ちも落ち着いた気がした。
「みんな早いじゃん。ここで大切な話があるんだ。」
「なんッスか?大切な話って。」
「うん。みんな落ちついて聞いて欲しいんだ。」
ここで頑張らないと。泣きそうになるのを止めているのはこの決心だけだった。
「不二、もう少しで死んじゃうんだ。」
ざわめきが起こる。当然だろうけど誰も信じてはいない。
でも話しを続けた。
「不二は誰にも知られず死のうとしている。みんなを悲しませたくないからだと思う。
でも、とてもみんなに会いたがってる。じゃあどうしたらいいか、俺なりに考えてみた。
・・・・・明るく、明るく元気に送ってあげようって!」
みんなの顔を見まわした。真剣な面持ちになっていた。
「絶対に、ぜーったいに悲しむ顔しちゃダメだかんね。涙出してもいいから笑った顔で送ってにゃ。
わかった人は即不二の部屋へGO!!」
誰一人動かなかった。やっぱ信じてくれなかったのかな。俺だって言ってて嘘のような気がしてきた。
本当に嘘だったらよかった。なんでそうじゃないのかな。
そう考えていると、また涙が出そうになって、でも我慢した。
提案者自身が泣いてどうする。明るく、明るくと頭の中で繰り返した。

「英二、今言った話、不二が死ぬって・・・・嘘じゃ、ないんだな?」
大石は俺の目をじっと見て言った。みんなからの視線も感じた。
「・・・・・・うん。」
「そうか・・・・・。」
大石は一瞬悲しそうな顔をしたがすぐ笑顔になり
「とういうことだみんな。明るく、いいテンションで行こう。」

と、なんとも微妙な台詞を言って家の中へと入っていった。
「よ、よう、よ〜〜し。越前行くぞ!泣くなよ?」
「それはこっちの台詞ですよ。桃先輩。」
「タカさんはラケットをもって入った方がいい。みんな、泣いたらハイパーリミックス乾汁が待っていると
思って入ってくれ。」
「「「「「そ、そんなぁ〜〜〜〜〜〜。」」」」」
みんなはトボトボと入っていったが、目には、絶対飲まない!と力漲るものがあった。
「英二には、今改良中の乾汁ハイパーデラックス(褐色)飲んでもらおうかな。」
「い、いや、遠慮しとくにゃ。」
ってか(褐色)って何だよ!?
でも、これが乾なりの気遣いだってわかった。
うん、これなら明るく送り出せそうだ。
後ろに、乾の微妙な笑みを感じつつ家の中に入った。











































家の中に入ると案の定、泣きながら笑っているなんとも奇妙な光景と出くわした。

「ぐわぁ〜〜不゙二゙先゙輩゙お゙な゙がずぎま゙ぜん゙がぁ〜〜〜。マックいぎまじょうよぉ。」
「病気で倒れるなんて、まだまだだね。」
「不二子ちゃんがこんなことになっているなんてショッキーング!!」
「フシュ−−−−−−−−−−」
「大石、おまえは青学のくりがしら先生になれ。」
「て、手塚!?どこか頭でも打ったのか?」

手が付けられないと言うのはまさにこの状態のことをいうんだと思う。
間違ってたのかな俺。やっぱ小人数で送ってあげたほうが気持ちも込めやすかった
かもしれない。

「ふふっ。」
突然笑い声が聞こえてみんなは静かになった。
「何がおもしろいんだ?不二。」
不意に隣から言われた言葉で、今何が起こったのかを把握した。
不二が意識を取り戻したのだ。
「二度と拝めない姿だよね。みんなのやり取り。」
「不二もそう思うか。俺も今そう思ってたところだ。特に手塚のギャグくりがしら先生を
知っていたことにも驚きだが、大石と似ていると考えた手塚の頭は表彰ものだな。」
「そうだね。」
それっきり会話が途切れた。みんな、何て声を掛けたら言いのかわからなかった。
もう死んでしまうのに「元気・・・?」は絶対おかしいし、だからと言って「大丈夫?」は
あまりにもこの状況に合っていない。大丈夫じゃないからみんなしてこの場に集まっているのだから。
みんなは一生懸命頭を働かし話しかけようとした。

その時、突然が不二に抱きついた。
何事かと思った。さっきまで何一つ言わず、ずっと不二を見ていただけだったのに。
もしかしたら、いろいろ考えているうちに心が壊れてしまったのではないのか。
不二がまだのことを好きだと知って、でも知った時には自分達に時は残されていなかった。
きっとさっきまで俺が考えていたことが頭の中でグルグルまわったのかもしれない。
俺の場合は感情が外に流れた分、少し落ちついてきた。
でも、心の中での場合は心の中で決着を着けようとしたため壊れてしまった。
そう考えられた。


不二だけが辛いと思っていた。
けど、だって辛いんだ。俺だってそう。
でも、辛いという感情はだしちゃ駄目だ。だって一番辛いのは、不二だから。

そう思っていたけど、を見ていると違うのかもしれないと思えた。
確かに、みんなが抱いている気持ちは別々だけど、でも、自分たちの中ではその辛い気持ちが一番だから。
不二は死んでしまうことが一番辛い。は大切な人を失ってしまうのが一番辛い。
俺も、みんなも、今抱いている気持ちが一番辛いことだと思う。だから、気持ちに順位なんてない。

そう考えると、気持ちを抑えて笑って送ろうってことは無理に近いことかもしれないと、少し後悔しはじめた。
やはり不二の病気のこと知っている人だけで送ったほうがよかったのだろうか。

「手塚、笑って送り出そうって提案じたいおかしかったのかな。やっぱ無理な話なのかな。」
手塚は黙っていた。この沈黙が無理なんだっていっているような気がした。
「みんな呼ばなければよかった。」
「いや、呼んで正解だ。」
突然返事が返ってきたので思わず手塚の方を見た。

・・・・・笑ってる?

そうのように見えた。手塚は不二たちの方に視線を向けていた。
何でだろうと思い、俺も不二たちの方に視線を向けた。
不二もも微笑んでいた。

「ねぇ、乾、なんで笑っていられるのかな・・・・。」
「さあ・・・。嬉しいことでもあったんじゃないのか?」
「こんな時に嬉しいこと?」
「例えば大切な人が死んでしまうけど、なんと遺言で遺産はすべてに譲る・・・とか、
実は今までのは全て演技だった・・・とか。」
「・・・本気で言っている?」
「例えと言ったじゃないか。」
「例え悪すぎ!冗談にもほどがある。」
乾はしばらく不二達の方をじっとみつめ、また俺の方に振りかえった。
「本当に嬉しいことがあったんじゃないのか?」
「そんなことあるわけ・・・・」
「みんなの顔見てみたか?」
「みんなの顔・・・・?」
俺は周りを見まわした。・・・笑っていた。涙流す者もいたけど必死に笑顔を作っていた。
「不二はそのことが嬉しいんだ。最初はみんなと会わず逝く予定だったんだろ?でも、気づくと必死に
笑顔作って自分に会いに来てくれている。そんな気持ちがとても嬉しかった。まぁ、俺の勝手の推測だが。」
じゃあは?と聞こうしたが言葉を飲み込んだ。
聞くまでもなかった。そして、聞いて楽しいものでもない。
理由は簡単。不二が笑っているから・・・。
別に嬉しいわけでもなく、楽しいわけでもない。でも、不二が笑っているから笑う。
これは相手のことが好きだからできる芸当。
要するに、2人の間に入ることはできない。
でも、昔みたいな感情はあまりなかった。それはのことが好きだけど、不二も好きだって気づいたから。

「独占力強すぎかにゃ。」
そう呟いて二人のもとに近づいていった。それに気がついてか、不二はこちらを向き微笑んだ。
いつもの不二の笑顔。
二人を包む様に抱きしめた。

「不二、ごめん。」
喧嘩していた時から今まで謝っていなかった。だから、最後に謝っておきたかった。
例え何のことで謝っているのかわかっていなかったとしても。
でも、わかっているみたいだった。悪いことをしたのは自分だからって言った。

「それよりも・・・・」
耳もとで囁かれた。
言い終わると俺の身体に重さが徐々にかかってくるのが感じられた。
周りではさらに泣き声が聞こえてきた。
まったく、最後の最後まで不二にもっていかれた気がする。
いや、これが最後ではなく、これから始まるのかもしれない。

のこと幸せにしてあげて。じゃないと呪うから。」

はっきり言って脅しだろ!と思った。だってそれは、生きている限り続く不二の呪いだから。
でも、俺が生きている間は、まだ不二も生きていると言う証にもなる。
だから生きていこう。証のために・・・・・















【やはり反省会】


えっと、不二を殺してしまいました(汗)ごめんなさい。
これ、はっきり言ってドリームちゃうやろ!というツッコミはごもっともです。
なんか最終的には様×不二というよりも不二菊風味?で仕上り、自分でも
ビックリ(爆)
これは『安全死宣言』という本を読んで作成した話です。
病院での医療不振、強制される治療、それを振りきって自分の意志で自宅療法
を選んだ方々の体験談が載っています。
そして更に、とあるサイト様(どこだったか忘れた)の夢小説死ネタの話を読
んでめちゃくちゃ感動したんです。そんな感動を自分でも書けたらと思いペン
をとった次第でございます(ただし、自分の性格上どうしてもお笑いが入って
しまうのが難点)
ということなので、ガンにしたのですが知識がないためこんな感じになるのか
なぁとかなり不安のネタですが、この際、病名は忘れてください(爆)
では長くなりましたが最後までお付き合いいただき有難うございました。
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