花見

















一年に一度は必ず春は訪れる。

今年も桜が花を咲かせ、八分咲きと見ごろを迎えている。

となると、屯所内では騒がしくなるのが普通で、あちらこちらから花見だ、酒だ、

と昼間だというのに宴会が始まる。

こんな騒ぎの中、今年も加わることが出来ない者が3名。


近藤 勇

井上 源三郎

そして、沖田 総司


3人はお茶をすすりつつ、遠巻きから皆の様子を眺めていた。

あの騒がしい集団の中に加わりたいというわけではないが、加われないというのも

なんだか意気消沈してしまう。

何をいおうこの3人、酒が全く飲めないのだ。

したがって、宴会に参加することが出来ずにいる。

こういう時こそ仕事があればいいのに運がいいのか悪いのか、非番という名の暇を

持て余していた。


「それにしても本当に暇だな。試衛館に手紙でも書くか」

と、近藤勇は立ち上がり部屋へと戻っていく。


「では、そろそろ掃除でもしますか」

と、井上源三郎も立ち上がりこの場から去っていった。


さて自分は何しようかと、一人残された沖田総司は湯のみをお盆にのせつつ考える。

すると、向こうから一人の男がこちらに歩み寄ってきているのに気づいた。



「総司、今暇してんのか」

「そうですね、土方さんよりは暇だとは思いますけど、嫌ですからね」


歩み寄ってきた男、土方歳三に言い放った。

当然、いきなり嫌だと言われても何のことだかわからないので土方は聞き返してきた。


「土方さんのことだからどうせ『暇してんなら隊士の監視手伝え』とか言い出すんでしょ?」

土方は苦りきった表情をした。どうやら図星の様だ。


花見、宴会をするのは結構だが、度が過ぎる隊士が出る可能性がある。

いくら会津藩御預りとはいえ、こういうことはきっちり取り締まらないと周りへの

示しがつかない。

だから、鬼の副長である土方が自ら監視を行っているのだ。


「なんで非番にもかかわらず参加することのできない宴の監視なんざしなくちゃ

ならないんですか。そんなことするくらいなら暇を持て余します」

「おまえは孝行という言葉を知らないのか。新選組のために俺は頑張ってんだぞ?」

「孝行ならいつでもしているじゃないですか。この前だって非番の私に仕事押し付けましたし。

いつもどころかこのまま土方さんが一人の女に決めていただかないと

老後は私が世話するはめになりうるのではないかと危惧しているくらいです」

「俺を年より扱いすんじゃねえ!」

怒り声とともに拳がとんできたのを軽くかわしながら笑った。

土方はますます仏頂面になる。


「あー、もう、とにかくこれは副長命令だ」

「公私混同してません?武士道に背いたら切腹ですよ?」

「お前、喧嘩売ってんのか」

「そうですねぇ、ただ私闘は禁止だから戦う気はありませんが」

ああ言えばこう言うとはまさにこの事で土方はほとほと困っている様だが、沖田にしてみれば

楽しくて仕方がなかった。


「とにかくだ、総司・・・」

「あー、すいません。相手したいのは山々なんですがどうやら暇ではなくなったようです」

「んあ?」


土方も沖田が見ている方向に目を向けると、屯所の入口からひょっこりと

顔を覗かせている人物がいた。

沖田が手招きすると嬉しそうに走り寄ってきて包みを差し出された。

「お団子持ってきたから一緒に食べようよ」

包みを受け取りお礼を言いつつ、土方の耳元にむけ小声で言う。


「人の恋路、邪魔するなんて野暮なことしませんよね」


そのまま微笑みかけてやると、土方はチッと舌打ちをし、ガキはガキ同士仲良くしてなと

捨て台詞を吐き去っていった。

「私、一生副長さんに差し入れしてやらない」

頬を膨らませ怒り出す少女がとても可愛らしく見えた。


いや、少女という表現は少々間違っているかもしれない。

今年数え年20歳になるは、沖田と同様に近所の子供たちと遊ぶのが趣味で、

年上からも年下からも好かれる性格をしている。それゆえ、幼く見られがちだ。

本人はとても気にしているようだが、そういう性格だからこそこんな壬生狼と恐れられた

集団に偏見を持たず馴染むことができたのだろう。

そんな集団の中で特に沖田とは仲が良く、こうして何かを持って遊びにくるのだ。



「それにしてもよかったですよ。今年は花見に参加できるようで」

隣に座って包みをあけているに言った。

「え?花見したことないの?」

「いや、勿論ありますよ。ただ、私下戸ですからこういう花見になると・・・ね」

自分たちの先で酒を飲んで騒いでいる隊士たちを指した。

原田なんか相当飲んでいるようで、腹踊りを始めようとするのを必死になって

押さえこんでいる藤堂の姿が見える。

「下戸じゃなかったら宴に参加したかった?」

苦笑いしながら聞いてくるに首を振って答える。

「こうしてと花見している方が楽しいです」

ひろげられた包みから団子をとり口へと運ぶ。

はその返答に嬉しそうに微笑み同じように団子を口へと運んだ。










「それにしても花より団子という言葉が良く似合う人ですね」


次々に口に運ぶ彼女に言う。

「桜は見て楽しめてもおなかは膨れない。違う?」

「ごもっともで」


からかうつもりで言った言葉も見事にかわされてしまう。


不思議な人だった。

土方みたいに上手くのせられるわけでもなければ、先ほど土方が言ったこと

に対して怒り出すこともある。

性格が掴めないわけではない。心が掴めないのだ。

そういうところは大人なのだと思う。

だからこそからかってみたくなる。落してみたくなる。



「何・・・って何急に抱きついてきてんの!?」

慌てふためくの態度に満足げに微笑む。

「桜は見て楽しめてもを感じることはできない」

「・・・・・・はい?」

「先程が言ったんじゃないですか。『桜見ても腹膨れない』って。だから私も

『桜見てもは感じれない』」

「いや、そんなこと言ったら何にでも応用がきいちゃうような・・・」

「自分が言ったことに責任持たないんですか?」

「も、持つけど・・・えっと、み、皆いるし?」

「では人がいなければいいんですね?」

体を離して顔を覗きこんだ。戸惑った表情で、そうじゃなくてと言い出す

さらに追い討ちをかける。

「言ったことには責任持つんですよね」

しまったとばかりに口をあけたが、どうやら言い返す言葉が見つからないようだ。

からかうことに成功し、笑いながら冗談であること伝えようとした。


しかし言えなかった。


ある意味の方が一枚上手だった。


は頬を染めながら沖田から目線をずらし言う。




「あの・・・・・・できれば優しくお願いします」




今度はこちらが開いた口が塞がらなくなった。やはりには敵わない。

桜の花びらのように頬を染める沖田だった。





                      完


あとがき

最初『春』で書いてたんですが『花見』があることに気づいて途中で変更。
総司ってなんかいいね。斎藤さんファンなのになんか総司も良いかもって思ってきてる
浮気心満載です(?)
なんか今回土方さんとのやり取りが楽しくなってきちゃって危うく沖土になりそうになった(汗)
そういえば土方さんの夢小説かいてないなぁ。
『夜』か『密室』で書こうかな(すいません。これが土方さんのイメージです 汗)
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