意外な一面








夜だというのにあたりは明るく賑わっていた。

下駄がカランコロンと鳴り響き人々の笑いは絶えない。笛や太鼓の音色が独特の空気を醸し出し、自分の心も躍る。


今日は由比ヶ浜に来ていた。鎌倉花火大会があるのだ。毎年春日家と有川家のみんなで祭りに行くのだが

今年は将臣と二人きり。

二人だけで行きたいという将臣の申し出に少し疑問に思いつつ、誘いを受けたのだ。




「将臣くん、りんご飴!りんご飴食べよう?」

「さっき綿菓子食ったばかりだろ」

「あれはあれ。これはこれだよ」

おじさーんと、店に行きりんご飴を一つ購入し振り返ると将臣は苦笑いしながら

「俺はぶどう飴」

と近づいてきたので結局は食べたいんだとも苦笑いした。


ガラス細工に射的と色々見て回っていると、おもちゃを売っている出店の前へと来た。

その中で売っている商品にふと目が留まる。

(あれって・・・)

昔、花火大会のときに将臣に買ってもらった指輪によく似ていた。

おもわず手にとって眺める。本当によく似ていて懐かしい気分になりは微笑んだ。

「どうしたんだ、?」

急に将臣に話しかけられ、あわてて指輪を戻し、「なんでもない」と誤魔化した。

そうか?と将臣はチラッとおもちゃの商品を見ながらラムネ買ってくるからその辺で待っててくれと

その場を後にした。


少し道から離れたところで座り休んでいると、どこからか男の子の泣き声が聞こえた。

気になってあたりを見回すと、ベンチに一人の男の子が座っているのを発見した。きっと親と逸れたのだろう。

泣き止みそうになるとまた大声で泣くことを繰り返していた。

は立ち上がり男の子のそばへ行く。どうしたの?と話しかけると男の子は泣きじゃくる顔を上げ、何か言いたそうに

口を動かした。しかし口から漏れるのは嗚咽だけで、また大声で泣き出してしまった。


こういうときはどうしたら良いのだろうか。

一人っ子のにはわからなかった。

譲という弟的存在もいるが、どちらかというと一緒に泣いていたクチなのでこの状況は困ってしまう。

(白龍もこんなに泣いたことなかたしなぁ・・・)

もし泣いたとしても、譲の手作り菓子をあげればすぐ泣き止んでいた。しかし、どの子もお菓子を与えれば泣き止むとは

限らないし、あいにくお菓子も持っていない。

とにかく泣き止んでくれないことにはどうしようもないと、ハンカチを差し出して「泣くの止めよう?」と言ってみる。

しかし、男の子はハンカチすら見てくれない。本当にどうしたらよいのだろうか。



、少しこれ持っててくれ」

急に後ろから話しかけられ振り向くと、将臣が立っていた。

は言われたとおり差し出されたラムネジュースを2本持つ。

将臣は男の子に近づいてしゃがみこんだ。

「どうしたんだ?迷子か?」

話しかけても泣き続けるだけだった男の子が微かに頭をコクンと下げた。

「男だろ?泣くなって。・・・っとそうだ、お前ラムネ飲めるか?」

再び男の子が頭を縦に振ると、将臣はからラムネを受け取りふたを開け差し出した。

「これ飲んで落ち着いたら親探しに行こうな。見つかるまで俺たちがついててやるから」

一人にはさせないさ、と将臣は男の子の頭をポンポン叩き言うと男の子は「ありがとう」と呟いた。







「知ってるか?ラムネについてるビー玉の取り方」

「これって取れるのか!?」

「ああ。これはこうやって・・・・・」

あんなに泣いていた男の子がいつの間にか将臣に懐いていた。

将臣がこんなに子ども扱いが上手いとは思わなかった。

以前はそんな素振りは見せなかった。やはり異世界での暮らしの影響だろうか。

平家に小さい男の子がいたというのを聞いたことがある。4年もその人たちといれば子供の扱いぐらい上手くなるのだろう。

良いことなのに、寂しく思えた。幼い頃から一緒に育ちお互いを知り尽くした仲なのに、この4年という月日で知らない

人になってしまったように感じる。

ただ実際は、将臣は将臣で。昔から知っている将臣で・・・。

相変わらず寝起きは悪いし、サボり癖があるし、なのに勉強は出来て、バイトバイトの毎日で、また学校でしか

会うことのない日々に戻っていて。

以前と変わらないこの関係が、取り戻したかったこの平和な日々が辛く思えるのは何故だろう。

知らない一面を見るたびに胸が苦しくなるのは何故だろう。







『本当、九郎って昔から変わりませんね』

『なんだそれ、馬鹿にしているのか弁慶』

『ふふっ、違いますよ。変わらないでいることがどんなに難しいか。大人になると知らなかったことを知るようになる。

知りたくなかったことも知るようになる。そうすると、今までの自分の価値観が変わっていってしまうんです。

状況によって、変わらなくてはいけないこともでてくるんです。変わりたくなくても。だから、九郎みたいに

変わらないでいることが羨ましい』

『弁慶は変わってしまったとでもいうのか?』

『そうですね。何にも考えていなかった昔よりは色々考えるようになりました』

『・・・それは変わったと言っているのか?』

『どうでしょう。九郎はどう思いますか?』

『変わったか変わってないかなんてわかるものか。弁慶は弁慶だろ』

『そういうところがあなたの良いところなんですよ。変わらないところが』

『?』




以前九郎と弁慶が交わしていた会話である。そのときは隣でなんとなく聴いているだけだった。

だけど、今だと弁慶の言っていたことが身に沁みる。

将臣の知らない一面を見るたび変わらないでいてほしい気持ちが大きくなる。

私から離れていってしまうんじゃないかと、は不安に思った。



「こうやったら、ほら取れただろう?のもとるか・・・って?」

わからない。ただ、気を引きたかっただけなのかもしれない。自分から離れてしまわないように。

巾着に入れていた朔からもらった舞扇を手に、少し人がはけて広がったコンクリートの上で舞い始めた。

周りの人々は何事かと変な目で見ていたが、次第に観客は増えていった。



舞い終わると周りから拍手が一斉に起こりはおもわず照れる。

そうだ、今注目されているこのときならと、は声を上げる。

「今、男の子の親を探しています!どなたか心当たりありませんか?」

は、男の子を手招きして人々の中央に立たせた。ざわざわ人々の声がする中、一人の女の人の声を

捉えた。

その女性はこちらに近づいてきて男の子の名を呼んでいた。男の子もそれに気づき、女性の方に走り出した。

親だった。二人はしばらく泣いて抱き合った後こちらに向き「ありがとうございます」と頭を下げた。

二つ三つ言葉を交わした後、二人は去っていった。男の子は見えなくなるまでこっちを向いてありがとうと言い続けていた。





将臣に話しかけられ振り向く。少し、いいか?と人から外れた場所へつれてこられた。

「どうしたの?」

なにか、様子がおかしいと将臣を心配そうに見ていた。

将臣はしばらく沈黙を通していたが、口を開けた。

「物心ついたときからお前は俺のそばにいて、ずっと一緒にすごしてきた」

将臣は防波堤の上に登り座った。

「それが当たり前の毎日でお前がいない生活は考えたことなかった。だが、異世界へ飛ばされ、俺たちは離れ離れになった。

何年という月日が流れ、気づけば20歳を超えていた。そんなとき、おまえと再会した。全然変わってないおまえや譲の姿を見て

ほっとした。それで安心していたんだ」

将臣が手を伸ばしてきたのではそれを掴み防波堤に登った。海がよく見える。同じようにも座る。

「気づいたのは熊野で再会したときだ。あいつらに囲まれ楽しそうにしている姿は変わらない。だが、目が違う。

雰囲気が違う。生きるために剣を振るっているんじゃない。あいつらを守るために剣を振るっていると気づいた。

あいつらが大切。自分は二の次。以前のお前からじゃ想像も出来ない」

どうせ自分勝手な奴ですよ、と頬を膨らませてると将臣は苦笑いした。

そういうところは変わらないけどな、と。

「変わるなとは言わない。変わったところでだからな。ただ、やっぱ、焦るんだよ。特に今日みたいに以前は

知識すらなかった舞を踊ってるのを見ると。置いていかれちまった気分になる。また、俺のそばから離れていってしまう」



意外だった。いつも私たちの先を歩いているのが将臣だった。こっちは背中ばかりを追いかけていて、追いつくのがやっとで。

今では追いつくことさえ難しく思えた。見失わないように、必死に自分の中にある将臣という知識の裾を掴んでいた。

でもまさか、将臣も同じ気持ちになっているとは思わなかった。

お互いに変わってしまったと思っていた。

お互いに置いていかれてしまったと思っていた。

「・・・なら、置いてかれないように、二度と離れないように掴んでいてよ。私と同じように」

は将臣を見つめた。将臣も目を離さずじっとを見る。

将臣が何か言おうと口を開いた瞬間、海の方で花火が始まった。二人は花火の方に目を向ける。

フラワーガーデンからスターマインに移り、色鮮やかな花火に圧倒された。



以前異世界で、景時に花火を見せてもらったことがあった。そのときも将臣はいて・・・。

離れてもいずれはめぐり合う運命だったのかもしれない。現に、今こうして再び鎌倉の花火を二人で見ている。

そう思うと少しホッとした。将臣が同じ不安を持っていてくれたことに、ホッとした。

気づけば、将臣の手を握っていた。

離れないように。

変わってしまってもいい。ただ、離れないように。

将臣も握り返してくれた。











「そういえばさっき言いそびれちまったことあったな」

花火大会がが終わり、浜辺沿いを歩いて帰っていた。将臣が思い出したように切り出す。

「俺は昔からお前を掴んでいたぜ?いつだってお前を見てきた。あのときだけだ、手を離してしまったのは」

右手を出せと将臣に言われ、よくわからないが言われたとおり出した。

将臣は、ポケットから箱を取り出し中から指輪を取り出しの指にはめる。

それは、幼い頃将臣に祭りで買ってもらった指輪によく似ていた。唯一つ違う点は・・・

「言っとくけどその石本物だからな?大切にしろよ」

バイトして稼いだお金で買ったという。

指輪を見ていた目が霞んできて、一気に涙があふれた。

嬉しくて、嬉しくて。

下を向いて涙を拭いていると将臣の手がの頭をポンポンとたたいた。

「懐中時計があの世界で俺たちを繋いでてくれた。今度はこの指輪がこの世界で俺たちを繋いでてくれる」

「将臣くんらしくない、その台詞。・・・かっこよすぎる」

「惚れたか?」

「バカ・・・」

はにかむ将臣の意外な一面を見ては微笑みながらもう一度手を握った。

その二人の手は家に着くまで離れることはなかった。





あとがき

将望阿弥陀で書かせてもらったやつです。お題から内容がはなれていく現象に涙です(笑)とりあえず、
内容はどうあれ期限内に出来上がってよかった(汗)鎌倉の花火は見たことありません(爆)
水中花火ってどんなんでしょうか。地元の花火はあんまり特徴ある花火はないと思う。ナイアガラくらい?
年中「スターマインです!」と嬉しそうに言うアナウンスが鳴り響く記憶しかありません(笑)
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