夏の想い








今日はなんだか様子がおかしい。

そわそわしているようで、でも嬉しそうで。

何かあったのはあきらかなのに、それを聞く勇気がなくてそんな自分に苛立ちを感じてしまう。


これでは駄目だ。


そう思い、譲は弓矢を片手に森の奥へ入っていった。

精神統一するには弓を引くのが一番だ。何も考えなくてすむ。

木の枝を狙い弓をひく。矢は枝をかすり遠くへ飛んでいった。

暑さのためかなかなか集中できない。

このあとも弓を引き続けたがやはり当たることはなかった。

こういう日は何をやっても駄目だ。

譲は矢をかき集めしまった。

このまま宿へ戻ろうかと思ったが、今に会ってしまったらまた苛ついてしまうかもしれない。

もう少し気を休めてから戻ろうと思った。


そういえば、川のせせらぎが近くから聞こえる。

この暑さを凌ぐのにちょうどいい場所かもしれない。

弓矢を肩に掛け、草木をかき分けながら川辺へ向かう。


地面が土から砂利や岩に変わり、周りが広がったところに出た。

中央に川が流れていて、譲は足場に気をつけながら水辺に近づく。

中央まで来ると、岩場に腰掛け弓矢を肩から下ろした。

足の裾を膝辺りまで上げ、水に足をつける。

冷たくて気持ちいい。

しかもちょうど水辺に木が一本立っているため、自分のいる場所が日陰になっていて涼む場所に最適だった。


(先輩だったら嬉しそうに足をバタバタさせそうだな・・・)


譲はなんとなく足をばたつかせてみた。水波が起こり広がる。

さらに足をばたつかせようとした。

しかし、未遂に終わった。

上流からバチャンという音が聞こえたからだ。

誰かいるのだろうか。

譲は横を向いた。


肌色の足が水面をリズミカルに上下し、足の上には短い白のスカート、さらに上には桃色の着物に陣羽織。

あれは紛れもなく知っている人物。


「先輩・・・?」


譲が話しかけるとその人物はこちらを向き驚いていた。

「譲くん!?」

まさか、ここにいるとは思わなかったらしく、バタつかせていた足を止めて固まっていた。

いい歳して子供みたいにはしゃいで足をバタつかせていたのをみられたのが恥ずかしかったらしい。

頬を赤く染めながらこちらをみていた。


「そちらでは暑いでしょう?ここ、ちょうど日陰になっていて涼しいんです。こちらに来ませんか?」

俺は宿に戻りますのでと、譲は立ち上がるとは慌てて止めてきた。

「まままままだ帰っちゃ駄目!」

「何故です?」

首をかしげながら中途半端に持ち上げた弓矢をもう一度下ろす。

は困ったような表情でえ〜っと・・・とうなりだした。

「あ・・・の、あ、あれだよ!一緒にいたいからだよ」

その言葉に今度はこちらが困ってしまった。

一緒にいたい。

それはこちらも同じ気持ちだし、こんな嬉しい言葉もない。

ただ、今はを避けてこの川へと来たのだ。

不純な気持ちのままといるのは気が引けた。


「俺は宿で少しやることがあるので・・・」

もう一度弓矢を背負いこの場をあとにしようとした。

「まって、駄目なん・・・・キャッ!」

「先輩!?」

急に短い悲鳴が上がりの方を見た。

は岩場に足を折って座り込んでいた。よく見ると膝が擦り剥けていて血が滲んでいた。

どうやら、岩に躓いて転んだらしい。

「先輩!大丈夫ですか!?」

譲は驚いてに駆け寄る。

「これは・・・、宿に戻って弁慶さんに見てもらったほうがいいですね。大丈夫ですか?

歩けないようでしたら俺が背負いますから」

「これぐらい大丈夫だよ。ただ転んだだけだから」

「だからって安心しては駄目です。傷口から菌が入ったらどうするんですか。処置してもらうのが一番です」

とりあえず応急処置だけしようと布を取り出し水に濡らして傷口に当てた。

は顔を歪めた。

「すいません」

「大丈夫だよ。ちょっと沁みただけだから」

譲は顔を横に振った。

「それもそうですが、俺が先輩の話を聞いていれば怪我することなかった。本当にすいません」

自分勝手な気持ちからを怪我させてしまった。


何をやっているのだろう。自分が先輩を守ると決めていたのに。

自分が原因で怪我をさせてしまうとは・・・。


譲は、の膝の部分の汚れを拭き取り、宿へ行くよう促した。

しかし、は首を横に振った。

大丈夫だよ、と。

なぜこれほど宿へ戻ることを拒否するのか。

そういえば先ほど、帰るという行動に駄目だと言っていた。

今日のの様子がおかしいのと何か関係があるように思える。


「・・・戻りたくないのですか?それとも、・・・・・俺が戻ると問題でもあるのでしょうか」

一緒にいたいと言った言葉は、自分を引き止めるためのたんなる言葉でしかない。

一緒にいたいなんて思っていない。

ただ引き止めるだけの・・・。


それを肯定するかのように、は黙ってしまった。

「何があるかは知りませんが、戻らないわけにはいけません」

「・・・もう少しだけ待ってほしいの。せめてあと3時間!」

「3時間?」

何がなんだかわからない。ずっと戻るなというわけではない。時間指定された理由は何だろう。

「あとちょっとだけでいいの。私たちに時間をくれないかな?」

の申し訳ない表情を見てしばらく考えたが、折れることにした。

のそういう表情には弱い。惚れた弱みというやつだ。









「譲くん」

「なんですか?」

二人で木の陰で涼んでいるとが話しかけてきた。

「この世界に来て半年になるじゃない?私が生きて平和とまではいかないけど、不自由なく過ごせてるのは

譲くんのおかげだと思う。ありがとう」

「どうしたんですか、先輩?改まって」

「う・・・ん、でも、本当にそう思うよ。ありがとう、譲くん」

本当に自分はに弱い。

この台詞だけで舞い上がりそうになる。

の様子がおかしいのは変わらないけど、やはり言葉には力がある。

言葉一つで喜んだり悲しんだりへの依存度は相当なものだ。

「俺がこの世界でやっていけるのは先輩のおかげですよ」

の存在が今の自分を支えてくれてる。

お礼を言うべきなのは自分だ。

「ありがとうございます」

の方を向いて言うと、照れながらももう一度ありがとうと言った。





数時間すぎて二人で宿に戻った。

が少しここで待っててと言って部屋の中へ入っていく。

疑問に思いつつ言われたとおり待っていると中から声がかかった。

ゆっくりと中に足を踏み入れる。


「これは・・・」

中に広がっていたものは大量の料理と、部屋の飾り付け。

意味がわからずの方へ顔を向けると笑いながら答えてくれた。

「ここへ来て半年。冬だった季節が夏になって・・・。で、気づいたの。

譲くんの誕生日夏だったでしょ?ここの世界じゃ日にちがわからないから、今日を誕生日にしようって」

いつも料理を作ってくれる譲に感謝の気持ちをこめてみんなで用意したとのことだった。


だから、あんなにそわそわしていたのか。

やっと合点がいった。

自分を思ってのことだったのに、そんな自分はの態度に苛ついていた。

「俺なんかのために・・・もったいないですよ」

もったいなさすぎだ。こんな男なのに。

でも、

とても・・・

「嬉しいです。・・・・・・・ありがとうございます」



料理をいただいて、そのあとにみんなからプレゼントまでもらった。

こんなに嬉しい日はない。

「私は、お金とか持ってないから良いものなんて渡せないけど」

そう言ってが渡してきたものは四葉のクローバー。

「幸せになれますように。譲くんを、守ってくれますように」

微笑を向けてくるの表情が嬉しくて。自分だけに向けてくれているこの事実が嬉しくて。

いつの間にか一緒に笑っていた。

この四葉のクローバーが俺を守ってくれる。

だから、俺は先輩を守ろう。何があっても。


あの、夢のようなことがないように。


幸せを掴むんだ。

譲は強く決心をした。





                              END




あとがき

誕生日記念SSです。場所は熊野・・・ですかね。正直誕生日迎えたとき京か熊野かわからなかったので
一切場所の名は出しませんでした(爆)なんか全然甘い感じがでてませんが、一方的なへベクトル
な感じになってしまいましたがいいです・・・よね(汗)むしろ暴走するのはIN鎌倉ですからまだ早い
ってことで。この小説書いているときに流していたCD、『ISM』by高橋直純だったりする。譲泣いちゃうから(笑)
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