ひらり、ひらり


空を見上げ、手を伸ばす。


ひらり、ひらり


吸い込まれるようにそれはこの手に収まり、私はにっこりと微笑む。


ねぇ、と呼ばれて振り返れば、頭から大量の花びらを浴びて。


怒ろうかと思ったがあなたの笑う顔を見てつられて笑った。


楽しかった思い出。またあの季節がやってくる。









桜舞





「ここの桜も久しぶりだな」

「あっちの若宮大路には桜の木植えられてなかったしね」

ライトアップされた桜を見上げる。

昼間だと人が多くて花見どころではないと思い、夜行こうってことになった。

「あ、また酒忘れちまった」

「兄さん。俺たちまだ未成年ですよ。いい加減元の歳に慣れてください」

「硬いこと言うなよ。花見のときぐらい無礼講だろ?」

「兄さんは花見に限らずいつでも無礼講だと思うけど」


二人のやり取りが微笑ましくて、ここで、この場所でまたこの桜が見れたことが嬉しくて。


私は、あの日と同じように手を伸ばし、落ちてくる花びらを手で掴んだ。

それを見せようと後ろを振り返れば、あの日と同じように愛しいあの人がいる。


「この世界の桜も綺麗なものでしょ?」

「・・・・・・・ああ」

「ヒノエ君?」

いつもの元気さが見受けられず、どうしたのかと尋ねた。

ヒノエはに近づき言う。


「姫君のお誘いを受けたら野郎も一緒だとは思わなくてね。

花は姫君がいて初めて映えるもの。酒盛りなんか始めてしまう男がいたら、折角の花も台無しだよ」

「大勢で行ったほうが楽しいと思ったから・・・」

「二人きりでは楽しくない。俺では役不足だってことかな」

「そ、そんなんじゃないよ。ただ、本当にみんなと来たかっただけ。

ほら、前に京で夜桜見たじゃない?あのとき、すごい綺麗だなって思ったからまた

花見したいなって」

慌てて言葉を継ぎ足してヒノエの顔を見る。相変わらず不機嫌な様子に、

私は『ごめんなさい』と謝った。




「悪いのは・・・」


悪いのは俺だ、とつぶやくヒノエの声がなんだかとても悲しげで、私はおもわずヒノエの手を掴み

走り出した。後ろのほうで『先輩!?』と呼ばれる声も振り切って。












鶴岡八幡宮、源平池。

橋の上で止まり手を離した。

息を整えヒノエのほうを向く。


「私は・・・・・・・」


あの世界で、下鴨神社で花見をしたことを思い出した。そこで交わした会話。



花見にイイトコ探しとくよ。



だが、その後花見をすることはなかった。

だから、この世界に戻ってこれたとき、私が連れてこようと思っていた。


今日の、この大切な日に。



「私は・・・・・」

「どうやって」

私が言い出したのと同時に、ヒノエが口を開いた。

「どうやって、二人っきりになろうかと考えていたけど、姫君から連れ出されるとは

嬉しい限りだね」

ヒノエは橋に寄りかかり、近くに咲いていた桜を見つめる。

も倣うように横へいき桜を見上げる。

「私ね、ヒノエ君を悲しませるために花見に誘ったんじゃないの。下鴨神社で二人で見た

あの桜が忘れられなくて一緒にまた桜を見たいと思った」

「・・・俺は悲しんでいる風に見えたかい?」

「見えたよ。今だってそう・・・」



悲しそう。



ヒノエを見つめた。

ヒノエは苦笑いしながら答える。


「悲しいとは少し違うかな。・・・・・・悔しいんだ」

地面を見つめそして目を閉じる。

「そういえば、あのときの約束を果たしていなかった。逆に果たされてしまったなとか。

いつもお前のそばにいれる将臣や譲に嫉妬してしまうとか。

そんな自分が悔しくて情けなくて・・・」


それでも、二人っきりになりたいと思うのは俺の勝手。

やさしい姫君のことだから、悲しい表情したら二人っきりになってくれると思う自分は

卑怯な男。




それでも、こんなにお前のことが・・・・・・



はヒノエの前へ立ち、両手を握った。目を閉じていたヒノエは目を開けを見つめる。

「なんでこの日を選んだかわかる?」

「この日がみんなの都合がよかったからじゃないのかい?」

は首を振った。

この日じゃないといけない理由、それは・・・

「今日がヒノエ君の誕生日だからだよ」

前に弁慶さんから聞いたのだ。4月1日、ヒノエが誕生した日。


あの時代の人は誕生日というものはなく、皆正月に歳を重ねると聞いたけど、折角誕生日があるのに

生まれたその日を祝わないのは悲しいと、プレゼントだけでもいいから渡そうと思っていた。


それがこれ、一緒に桜を見ることがプレゼント。

果たせなかった約束を私が果たす、それがプレゼント。


「満開の桜だったらよかったんだけど、それだと誕生日過ぎちゃうから」

にっこり微笑んだ。


すると、突然ヒノエはに抱きついた。は驚き、体が熱くなるのを感じた。

しばらく何も言わず抱きしめられていたが、も恥ずかしそうに腕を回した。


「俺は、本当に幸せな男だ。こんなに、駄目な男なのに」

「駄目なんかじゃないよ。少なくとも、私はあなたがいるだけで幸せだよ?」


すると、ヒノエは笑い出した。

「本当、姫君にはかなわないよ」

「なんか、わからないけど笑ってくれてよかった」

首を傾げつつも、喜んでくれてるとわかって私も嬉しかった。



「我が恋にくらぶの山のさくら花 まなく散るとも数はまさらじ・・・・・おまえは、月に照らされ

輝くこの桜のように美しいね」

「ヒノエ君・・・・・」







ひらり、ひらり


桜の花びらが舞う。


また、春の季節がやってきた。






                       END





あとがき

初遙か夢でございます。設定は一応十六夜のヒノエED後の話ですが、普通に読めると思います。
ヒノエ誕生日に乗り切れなかった数日遅れの誕生日記念SS。正直はじめて普通の夢小説が書けた
と思ふ(笑)いつもはなんだかんだでいろんな意味で濃い状態だったんで(汗)
ヒノエは白が似合うと思う。黒は平家'sに任せとけばいい。
鶴岡といえば相変わらずおみくじ凶の思い出がはなれず(涙)
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