薫風にのって








 今日はいつもより暑くとても過ごしにくい日だった。近所の野良猫もバテていた。
だから窓から入ってくる風がとても気持ちよくつい机の上で転寝をしてしまいそうになる。
しかし、寝てはいられなかった。期末テストが近かった。
いつもなら、直前にやるのだが、今回は夏休みがかかっているのだ。








、なんで呼んだかわかっているな。」
「ごめん。わからない。」
笑顔で答えた。
「にこやかに答えるな!・・・数学のテストのことだよ。」
「あは〜♪」
「ごまかし禁止。」
「すみません。」
竜崎先生はため息をついた。
「最近たるんでるぞ。しかもよく寝てるからこんな点数を取るんだよ。
そこでだ、今回平均点を越えなかったら、夏休みを削ろうかなぁと思っている。」
「ぇえーーー!!何言ってるんですか。」
「私は日本語言ったつもりだが?」
「まあそうですが、ってそういう意味じゃなくて・・・。」
「とにかく、おまえのことだから『今から勉強して出きると思ってんの』と逆切れすると思ってね、
仕方ないから特別コーチを頼んである。」



――――特別コーチ?



「いいぞ、入ってきて。」






竜崎先生は手招きした。すると、失礼しますと礼儀よくお辞儀をしながら入ってきた男子生徒がいた。
「私が顧問をやっているテニス部の部長、手塚だ。」
「3−4手塚国光だ。よろしく。」
お辞儀をしてきたのでつられてお辞儀をした。
「3−6です。」
「この前いった通りだ。手塚よろしく頼むぞ。」
「わかりました。」



―――――いや、何かわからないんだけど・・・



「さあ、行こう。」
いきなり腕を捕まれて引きずっていかれた。
















気付くと自分の教室にいた。しかもノートを広げシャープペンをしっかりと握っている。
無理やり勉強をさせられていたのだった。目の前には手塚国光が読書をしながら監視をしていた。



―――こいつってこんなやつだったっけ・・・



1回も同じクラスになったことがなかったが、手塚のことは知っていた。
あの有名なテニス部部長を知らないやつなんてこの学校にはいなかった。ファンクラブなんてものも
あるらしい。確かに、ファンクラブありますって顔してるもんなぁ・・・(どんな顔だよ!)
私がまじまじと手塚の顔を見ていることに自分は気付いてなかった。手塚は内心びびりつつも、
表情には出さないで言った。
「何か俺の顔に付いているか?」
「え?ひゃ、な、な、な、何もついてないよ。」
「そうか、ならいい。」
手塚はまだ、読みかけの本にしおりを挟み本を閉じた。
「わからないところがあったか?」
「・・・とりあえず今のところありません。」
「・・・うそ、だな。」
「なんで・・・。」
「さっきっから手が動いていない。とけていない証拠だろ。」
私は下を向いてしばらくして謝った。
「謝る必要はない。できないことは竜崎先生から聞いてたからな。できないのは覚悟の上さ。」
「違うの、そうじゃなくて、手塚くんの貴重な時間を削ってまで私に勉強を教えてくれることが本当に
迷惑をかけているというか何というか・・・」
私はあたふたしてしながら言った。
「俺は迷惑だと思っていない。」
とても驚いた。手塚くんが怒りながら返事をすることを考えていたのだが、少し微笑んでいるように
見えたからだ。
噂だとしかめっ面のような、無表情のような、とにかくいつでも眉間にしわが寄っているとの話しだった。
だからまたしても手塚くんの顔を凝視していたことに気付かなかった。
、やはり俺の顔に何か付いているのか?」
「・・・え、・・・ひゃぁ。」
気付いた時には目の前に心配そうに覗く手塚の顔があった。
「ち、ち、ち、ちちちちち違うよ。えっと、そう、ここがわからなくて教えてもらえない
かなぁとか思ったりして。」
「ああ、わかった。そこはy=x+2がこの頂点の座標の・・・・・・」
・・・なんとかごまかせたよね。
ごまかせたんだけど、これって・・・
「したがって、ここは放物線と直線が接する点(3,4)が答えとなるわけだ。この答えを使って
(2)を解くんだが、これは・・・」









長い、長すぎ。なんか眠気が襲って来た。
大好きな生物なら聞いていても飽きないんだけど数学だけは・・・もう、だ・・・め・・・・・・
「というわけだ、。」
「ZZZZzzzz・・・」
「・・・・・」




















そんなわけで案の定、手塚くんに怒られ今日はこうやって家でおとなしく勉強をしている。
しかも30分置きで電話がかかってくる。
「しっかりやっているか?」
今日何回聞いたことだろうこの言葉。もう耳たこである。
「やってます・・・。」
「わからないことがあったら遠慮なく電話して来い。」
「わかりました。では、さようなら。」
携帯を切った。もうこの際だから電源も切っておくことにした。
もうやる気はありません。ごめんなさい、私は悪い子ですから。
心の中でつぶやき、外に出た。
今日は本当に暑かった。自分から外に出てなんだがはやく、涼しいところに非難したいと思った。













しばらく歩くと駅前のデパートについた。私の頭の中にはすでに涼しむことしか考えておらず、
デパートに近づくほど急ぎ足になっていた。だから、人に当たったことにも気にしていなかった。
「おい、待てや。」
いきなり腕を捕まれた。
「何ですか?」
「何ですか?じゃないだろ、ぶつかっといて。腕おれたらどうしてくれるんだよてめえ!」
相手の人は今にも殴ったろかテメエ!!といわんばかりの顔をしていた。



――――これはやばい・・・おとなしく勉強しているべきだったよ。



少し泣きそうになっていた。
「ちょっと来てもらおうか。」
「来るってどこへ?」
「つべこべ言わずついてくるんだ!」
引っ張っていこうとした。私の必死の抵抗をむなしく、ズルズルと連れて行かれた。











その時である。いきなり『伏せろ!!』と叫ぶ声が聞こえた。私は、何がなんだかわからないが、
とにかく頭を抱えて伏せることにした。
しばらくしてそっと目をあけて上を見た。そこにはTシャツ、たんパンでバンダナをした人物が立っていた。
「大丈夫か。」
そう言うともう1人の人物を殴り飛ばした。そうするといきなり歓声があがった。
いつのまに人が集まったんだろうと思っているといきなり話しかけられた。
「・・・・おい。」
「な、なんでしょうか?」
少し今の状況が飲みこめずうわ声になってしまった。
「いつまで座っているつもりだ。」
「あ、そ、そうか。立たないとね。」
私は立とうとした。が、力が入らない。
「ねえ。」
「・・・なんだ。」
「手、貸してくれない?なんか腰抜かしちゃったみたいで立てない。」
しばらく相手は無言だったが、手を差し伸べてくれた。
「ありがとう。」
なんとか立ちあがることが出来た私は、何かお礼をしようとポケットの中を探った。
確か飴かクッキーか入っていたはずだった。











そうして探している時である。いきなり相手の男は怒鳴り声を上げた。どうやら周りにいた観客(?)
が気にさわったのだろう。私もさっきから私達を見てなにやらひそひそと話しているのが気にはなっていた。でも、文句なんて言えなかった。
だって普通知らない人に向かって、見てんなボケー!!みたいなことを言える人なんてそうそういない。
私だって言えない。だがこの人は言った。なんか、少しだけ感動した。
「ここにいる人達倒したの海堂先輩っすか?」
ボケーとしていると、いきなりテニスバック少年が近づいてきた。私はある意味この少年にも感動した。
威嚇している相手に近づくなんて私には出来ない芸当だと思ったからだ。
「だったらなんだ。」
「いや、ただ海堂先輩っていい人だったんだと思っただけッス。」
海堂と呼ばれた男はみるみる顔が赤くなり、フシュ―――――!!と言いながら走って言ってしまった。



―――――海堂?海堂ってもしかして・・・・



私は、海堂という男を追いかけていった。





















しばらくして土手に着いた。息を切らしながら私はあたりを見まわした。だが、海堂らしき人物はいなかった。だがここに来ていることは確かだった。





数分前―――――

『すみません。お尋ねしたいことがあるのですが』
ジャージをきた長身の男に声をかけた。
『ん?何かな。』
『えーっと、バンダナにフシューした海堂の走りを見ませんでしたか?』(←どんな状況だよ)
慌てていて何を言っているのかわからなくなっていた。
『・・・少し落ちついて話した方がいいんじゃないか?』
『す、すみません。』
『別にいいけど、・・・海堂なら土手の方じゃないのかな。』
『知り合いなんですか?』
『ちょっとね。海堂はこの時間ランニングを終えたあと公園で水分を補給し、また土手まで走る。
その後、川で素振りでもしていると思うよ。俺が決めた特訓メニューだからね。』
『は、はあ。』
『もし、その特訓中に何らかの支障が出たとしても土手に行って特訓を再開している確立85%・・・
彼はそういうやつだから。』
『わかりました。ありがとうございました。』












あの人の言うことはあっていると思う。だから必ずここにいる。私は周りを見回し大きな声で叫んだ。
「海堂―!!海堂薫!どこにいる。出て来―い!」
周りの人達は驚いて私の方を見てきた。でもそんな事気にはならなかった。何回も何回もその名を呼んだ。
だが反応はない。
「いないのかな、85%なのに。もう1回呼んで・・・」
大きく息を吸い込んだ。その時・・・・・

「ばか!!もう呼ぶな。」

と後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには捜し求めていた人物がいた。
「俺はここにいる。だからもう叫ぶな。恥ずかしい。」
海堂は顔を真っ赤にして言った。
「ごめん。薫ちゃん。」
そう言うと海堂は驚いた表情をしていた。
「どうしてその名を・・・」
「薫ちゃんだよね。私だよ。覚えているかわからないけど、よく昔遊んでた。だよ。」
「・・・・」
海堂は何も言わなかった。
「やっぱ覚えてないよね。ごめんね。変なこと言って。」
久しぶりに幼なじみに会えて嬉しかったが、覚えていなかったことには少しこたえたのか、泣きそう
になっていた。
「・・・誰も覚えてないなんて言ってない。」
「えっ・・・」
「俺は覚えてる。おまえの方が忘れていたのだとばかり思ってた。」
正直言ってこのような答えが返ってくるとは思わなかった。だから嬉しさのあまり、さっきまで堪えて
いた涙が溢れてきた。
「な、何泣いてるんだよ。」
「ごめん。ただ嬉しくて。またこうやって会えるとは思ってなかった。」
「そんなことでか。」
「だって、同じ学校にいるっていっても学年が違うから会えることなんて普通ないじゃん。
それとも、私に会えて嬉しくないの?」
少し切れ始めた。

「だいたい、あんたから会いに来てくれれば何の問題もなかったんだよ。
同じ学校に来るって聞いたからそのうち挨拶にでも来るのかなあと思ってたのに来ないし。」
「んな、恥ずかしくて会いに行けるか!ボケ!!」
今の発言を引き金についに切れた。
「ボケ言うたなボケって。私の嫌いな用語集の1つだと知っての発言か!?」
「知ってての発言だとしたらどうだって言うんだ。」
「秘密をばらす。」


海堂は一瞬動きが止まった。きっと海堂の頭の中では必死になってあのことか?そのことか?と
考えをめぐらせていた。
私はニヤリと笑みを浮かべつつ言った。
「手塚くんにでも言っちゃおうかなぁ。」
「な、なんで手塚部長のこと知ってるんだ。」
かなり慌てふたっていた。
「私の今の家庭教師だからねぇ〜♪」
「かてきょって・・・・・、なにも問題なんてないだろうな。」
予想外の返事に私は驚いた。



―――――とりあえず、心配してくれてるってことだよね。



私は少しいやみ口調で言ってみた。
「さあ、どうなんだろうね。」
「どうなんって、おまえのことだろうが。」
「手塚くんって笑うとかわいいんだよ。」
部長って笑うのか。見たことねえ。っていうか笑顔を見せるほどの仲なのかよ。
なんか許せねえ。
海堂の頭の中はパンク寸前だった。
だからかもしれない。海堂の頭の中には部長なんかに渡したくないという気持ちが大きくなり、
いつのまにかに抱きついていた。
「な、な、な、なななななな!!」
「あいつには渡さない。」
「薫ちゃん・・・。」
しばらく沈黙が続いた。最初はびっくりして見ていた群衆も気を利かしてか、しだいに減り始めてきた。
ずっとこのままでいたいと思うは黙っているつもりだったが、海堂は恥ずかしくてしかたがない
らしく 、引き寄せていた体を離した。
「・・・・・・・・なんか言えよ。」
「なんかって何を?」
「おまえ、鈍いのも程があるぞ!!」
怒りながら。の腕を握った。
「・・・あ、わかった。」
「わかったか?」
「うん。薫ちゃん駄目じゃん。自分の部長に向かって『あいつ』だなんて」
がくっ、んなことじゃねぇ!とツッコミたいところを我慢して言った。
「おまえ、このごにおよんでまだそんなこというか!」
「・・・さっきの告白と受けとっていいってこと?」
海堂はかなり顔が赤くなった。緊張のあまり、体が硬直してしまった。男海堂薫、ここでいかなきゃ
いついくんだと頭の中で連呼しつつも理性は大切だ、と考える自分がいた。
とにかくここは頷くべきだと判断し、かろうじて動かせた首を上下に振った。
「そっか、薫ちゃんが私のことを・・・・。なんか嬉しいな。」
「・・・・返事は。」
「さあ、どうなんだろう。」
「はあ?何言ってるんだてめえ!」
握っていた手に力をこめた。
「好きな相手に向かって『てめえ』はないでしょ!」
「おまえが馬鹿なこと言ってるからだ!」
「ええどうせ馬鹿ですよ!」
「んなこと聞いてるんじゃねえ。俺が聞きたいことはYESかNOかなんだよ!!」
「だからいきなりそんなこと言われてもわかんないって言ってるでしょ。」
「ここは気合で返事しろ!」
「無茶くちゃいうな!」
「無茶で結構だ。」
「・・・じゃあ適当に返事しちゃうよ。」
激しく言い合っていたが、いきなり海堂は黙った。聞きたい返事はYESだが、適当に返事されても困る。
YESといわれても素直に喜べないだろう。海堂は待ったをかけた。
「え〜。気合で言っていいんでしょ。」
少しいやみに言ってみた。
「だめだ。真剣に答えて欲しい。」
「じゃあ真剣に言うよぉ。わ〜た〜し〜は〜♪」
「ばか!!今言うな!真剣に言わないような気がする。」
「海〜堂〜薫のことがぁ〜・・・」
「だからやめろって言ってんだろ!」



―――――やっぱり薫ちゃんってからかうとおもしろい♪






返事は結局しなかった。でも私の返事はもう決まっているよ。




今は梅雨明け、初夏の始まり。




薫風にのせて伝えるから・・・・・




あなたと同じ気持ちを・・・・・・





                        fin
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