男心











「っ・・・、突然何言い出すんですか!」


飲んでいたお茶をおもわず噴き出しそうになる。


「日本語言ったつもりじゃったがの」

「そういうことじゃなくて・・・」

半ば呆れながら相手の男に目を向ける。

「なんじゃ、嫌かの?」

「嫌とか嫌じゃないとか、そういう問題ではなくてですねぇ・・・」


一つ溜息をついて持っていた湯のみを畳に置いた。

正座をし相手と向き合う姿勢をとる。


「いいですか?貴方には妻がいればおうのさんだっている」

相手の男は頷く。

「それにもしいなかったとしても、物事には順序ってものがあります。わかりますか?」

「わかっちょる、わかっちょる」


明らかな適当頷きをしつつ、男はとの間の距離を詰めて言う。

「じゃけぇ、おのしを抱かせろ」

「だあぁーーーっ!しぃー、しぃー」

は男の口を素早く手で押さえた。





隣の部屋には男の妻、政子がいる。こんな話を聞かれたらどのようなことになってしまうか

わかったものじゃない。

そもそも何故このような話になったのかまったくわからない。

藩からようやく出獄を許されたと聞いてこの男をからかいついでに顔を見に来た。

ただそれだけだったはずだ。

抱くとか抱かれるとかそういう間柄ではない。

明倫館時代の仲間であるから古き友といった感じであろうか。

とにかく、この男の言動がの理解の範囲を超えていた。










「ひゃんっ・・・!」






急に変な感覚が全身を覆った。男の口を押さえていた手のひらを舐められたのだ。

突然のことにおもわず声をあげた。

「おのし、なかなかええ声出すのぅ」

「し〜ん〜さ〜くうぅぅぅぅぅ!!」

キッと睨みを効かせたが、男もとい、高杉晋作はニヤニヤしているだけでちっとも効いてないようだ。

なんか、もうここまでくると何といったら良いのかわからない。

今まで聞いたこと全て忘れたい、とは思った。


しかしそんなことは叶わず、高杉が顔を近づけ更に困惑することを言った。





「俺はおのしが好きじゃ」

「な・・・に言って・・・・・」

「抱かれるのは嫌か?俺が嫌いか?」

「いや・・・あの・・・・・」




さっきとは打って変わって真剣な顔をするものだから俯きつつもおもわず

嫌ではない

と、小さな声で呟いてしまった。


その言葉を逃がさず聞き取った高杉は、してやったりと、ニヤリと笑みを浮かべ

に手を掛けようとしていた。


それに気づき、は慌てて言葉を付け足す。


「でででででも、私だけ好きというのではないなら抱かれるのは嫌です!」


高杉の手が止まった。痛いとこを突かれたらしい。

「俺は政子もおうのも好きじゃ。だけというわけにはいかん」

「・・・・・では私に触れないで下さい」

は、高杉の手をはたき後ろを向いた。




今の表情を見られたくなかった。きっと、とても傷ついた顔をしているだろう。






わかっているのだ。わかっていても、好きだと言われれば期待をしてしまう。自分が一番だと。






高杉晋作が好きだから、高杉ものことが好きだから、






だからこそ自分だけを見ていてほしかった。
















耳元で囁かれ、後ろから腕が回された。

背中に当たる体温がとても心地よく感じる。

は高杉の手に触れつつ、場に流されないよう自分自身に注意する。


「男ってそういう生き物なのかな」

「何がじゃ」

「一度に複数の女を愛せる」

「おお、やっとわかったのか」

「そう思わないとこっちがやっていけないわよ」

触れていた手の甲をつまんでやった。高杉が痛そうに声を上げる。


「いたたたたた、言うがの。おのしは他の男好きになるな」

「・・・・・・・・は?」

「俺だけを好いちょれ」

「・・・何故?」

「俺が嫌じゃからに決まっちょる」

なんとも高杉らしい意見である。まぁ、自分勝手とも言いなおせるが。

普通に考えれば、高杉は何人も好きになっても良いがは駄目というのは単なる我が儘だが、

惚れた弱みというか、感覚麻痺というか、とにかく今この状況では高杉だから仕方ないと思ってしまう

であった。



「男ってわからない。女は一人の男しか好きになれないのに」

溜息を吐き後ろに寄りかかった。

本人は忘れているようだがの後ろには高杉がいるわけで、

そのまま重力に逆らわず床に倒れ体勢を入れ替えられる。

の目の前には、ニヤリと笑みを浮かべ見下ろす高杉がいる。


「・・・・・・あの、何をしていらっしゃるのですか?」

「理解できんか?」

「理解したくないです・・・って何、顔近づけてきてるんですか!?」

「当初の目的を果たそうとしているだけじゃ」

「『だけ』で片付けられるような行動ですか!?」

「あー、もう、うるさい口は塞いだほうがええのう」


そう言うと、さらに顔が近づけられた。







唇と唇が触れるまであと少しというところで、急に外から政子に話しかけられた。


二人は硬直する。







「伊藤さんが見られましたがお通ししてもよろしいですか?」






「・・・・・・・・・・・あの阿呆ぅ」


舌打ちしながら残念そうに身体を起こす高杉の姿におもわず笑ってしまう。

「俊輔くんですか?」

「なんじゃ。そげん俊輔の来訪が嬉しいかよ」

「ある意味嬉しいかもしれません」

伊藤が来て助かったと思う反面、残念な気持ちもあった。

も起き上がり襖を開ける。

そこにはすでに伊藤もいた。


「あれ?さんも来ていたんですか」

驚いた様子で部屋を覗き込んできた。

「高杉さんなんかと一緒にいてもつまらないでしょ。どうですか今夜、

一緒の布団の中で踊りませんか?」


「・・・・・・遠慮しておきます」


こめかみを押さえながら返事をした。

本日、理解に苦しむが、男の考えはじめてわかったような気がする。

は、三人の視線を集めながら部屋から出ていった。





                     完




あとがき

萩ヘツレテッテクダサイ(爆)
わかんねぇよ長州語。わかるのは標準語と地元の方言だけだよ(笑)
これ書く前に土佐弁を少し勉強してたんでその後長州語(山口弁)手を出したら
わけわからなくなっちゃって土佐弁を完璧忘れました。
地元の方、変な表現技法があったらすいません(汗)
そして一人称「俺」ですいません。のぅのぅ語尾つけてるとなんかじいさんみたいに感じちゃうので俺にしました(爆)

男心で書いた作品、気づくと女心の方があってるような気がして最後に軌道修正。
自分もう駄目だ(汗)
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