この季節は好きだ。

夏は暑い、秋は気温の差が激しい、冬は言うまでもなく寒く辛い。

だが春は、生暖かい風と心地のよい日差しで過ごしやすい。生い茂った草の中に寝転んで昼寝をする

時が最高に幸せなときだ。

今日も天気がよかったので己の仕事を早く切り上げ、帰り道にある川辺で昼寝をすることにした。

草の上に寝転び、被っていた藁帽子を日差しを遮るように顔にかける。

鼻をくすぐるような草花の匂いや小川のせせらぎにすっかり気が休まり、すぐ眠気が襲ってきた。

目を閉じ意思に逆らわず眠りに落ちようとした。

だがその時、急に声をかけられ目の前の藁帽子を取られた。

日差しが眩しく、目を細めながら声の犯人を確認する。


「・・・・・・か?」

逆光でわかりにくかったが他に昼寝の邪魔をする人物が思い浮かばない。

宗次郎ならしかねないがかけられた声は女だ。だとしたらしか考えられない。

思ったとおり声の主はでご名答と言いながら笑っていた。

「笑ってんじゃねぇよ。昼寝の邪魔するな」

せっかくの楽しみを邪魔され不機嫌な表情をし睨み付けた。

「昼寝なんてしてる暇あるの?いつまでものぶさんに頼るわけにはいかなんでしょ?」

自分の仕事は行商で石田散薬という薬を売って生活をしている。一日の売り上げは高が知れていて

の言うとおり昼寝なんてしている暇があるなら生活のため売り歩くべきだろう。

特に最近は島崎勝太という天然理心流という剣術道場の跡継ぎに出会い、自分も門下生になったため

出費はさらに激しくなった。

「お前にどうこう言われたくねぇよ」

ほっとけと、手で追い払うしぐさを見せたが、は動こうとしなかった。

それどころか隣に座り込みあくびをし始めた。一緒に寝るつもりなのだろうか。

「私が代わりに昼寝しとくからいってらっしゃい」

微笑みながら手を振ってくる。

「ハァ・・・こんな煩い女がいたら昼寝どころじゃないし、吉原でも行ってくるか」

起き上がり荷物をまとめながら言うとは袖をひっぱってきた。

「吉原だけは駄目!のぶさんに言いつけちゃうんだから!」

は何かしようとする毎に『のぶ』の名を出してくる。

のぶは歳三の姉で日野宿名主である佐藤彦五郎の妻である。幼い頃は次兄の喜六に育てられたが

最近ではのぶのもとにいることが多かった。姉弟の仲は結構良いと思う。だが、昔からのぶには

頭が上がらない。はそのことを知っているため度々のぶの名を出してくるのだ。

は日野宿で働いている。最初はいい女と思っていたが、最近姉に似てきたようでだんだん苦手意識を持って

しまっている。

「昼寝は駄目、吉原も駄目。こんなに春の陽気が気持ちいいのに何が仕事しろだ。冗談じゃねぇ」

「こんな時こそ仕事でしょ!雨の日は仕事できないんだから」

ほら行くよ、と歳三の藁帽子を持ったまま町に戻ろうとするので仕方なく荷物を背負い重い腰を上げ

付いて行く。



























空を見上げれば真っ赤な夕日。

子供たちが家に帰るのに走っていく姿が彼方此方見受けられた。

自分たちも帰り支度をして歩き出す。

腰には重くなった小銭入れがいい音を奏でながら揺れていた。

「やっぱり売り子が良いと売り上げも良いものだね」

目の前を歩いているは振り向き言う。何故かわからないが売るのを手伝ってくれたのだ。

「・・・ありがとな。助かった」

「歳がすんなりお礼いうなんて気持ち悪い」

「んだよそれ。・・・二度とお礼なんていわねぇ」

頭を小突きながら言うとは笑っていた。

「にしても、なんで今日は手伝ってくれたんだ?日野宿の方はどうした」

「今日は仕事休みなの。で、ちょっと、聞きたいことが・・・あって」

「聞きたいこと?」

しどろもどろに話すは珍しい。いったい何の話だろうかと首を傾げる。

「春って何?」

「春?春は春だろうが。今が春だ」

「そうじゃなくて・・・近所の人が『あの子にもついに春がきたんだねぇ〜』って言ってたから。

春って人によって来る来ないあるの?」

「あぁ・・・その春か。なんだ知らないのか」

どこかの小姑のように仕事しろとグチグチ言う割にはまだまだ子供なのだとおもわず笑ってしまった。

は馬鹿にされたのだと気づき不機嫌な表情を見せたが、そのことがまた笑いを引き起こしてしまった。

「いや、いいんじゃねぇの?知らなくても生きるのに困るわけでもないし」

「でも馬鹿にしたよね。のぶさんにも笑われたし。『そういうことはきっと歳三が教えてくれるから』って

言われたからあんたの所に来たのに」

「姉さんが?・・・ったくいい趣味してるぜ」

前にっていい女だよなと姉にもらしたことがある。きっと姉は俺がのことが好きなんだと思っているのだろう。

「お前、好きなやついるか?」

「え!?・・・いない、いや・・・いる、わかんない」

「まさか、初恋もまだか!?」

驚きながら聞くと頷かれさらに驚く。もしかしたらどの気持ちが恋というのかがわからないのかもしれない。

どこから説明していいものか考えたが、とりあえず恋を知ることから理解させようと口を開く。

「人といて誰かドキドキするってことあるか?」

「ドキドキ?胸が高鳴るってこと?・・・彦五郎さんと話をするときは緊張するけど」

「そりゃまぁ、雇い主だからな。他には?」

う〜ん・・・と空を見つめながら考えていた。この様子だと本当に好きな人がいなさそうだ。

それはそれで少しへこむ。ここにいい男がいるのにと言いたいくらいだ。

いや、言ってみるか?とを見た瞬間『あっ・・・』と石に躓き転びそうになっていた。

慌てて手を伸ばし抱きとめる。危機一髪間に合いホッとした。

「考えるのはいいが前向いて歩けよな」

「・・・・・・・」

?」

何も言わずこちらをじっと見てきた。あまりにもじっと見てくるのでを離すことを忘れていた。

「ドキドキ・・・する」

「・・・・?」

「歳に、抱きしめられていると胸が苦しくなる。ドキドキする」

「お前・・・・」

まさかの一言に己の鼓動も速くなるのがわかる。

「こういうのを、好き、って言うのかな」


この女はこんなにかわいかっただろうか。


頬を染めながら熱い視線で見つめられ欲情しそうになる。




日が山に沈んでいく。同時に、己の顔もの顔に沈ませる。

軽く口付けをした。

深くすると歯止めが利かなくなりそうになるから。それほどにが欲しくなってしまった。

「やばいな・・・・・・俺に春がきてどうする」

呟きながらを離した。つまりは春というのは想い人ができる状態だと説明してやる。

それを聞きは微笑んだ。


「・・・私にも、春が来たみたい」


その言葉を聞き、きっと自分の頬は赤くなっていることだろう。日が沈んでいることが幸いだと、照れを隠すように

の手を掴み仲良く歩いていった。





              完

あとがき

誕生日だったので急遽土方さんの小説作らせていただきました。京に行く前の話が書きたかったので青春時代のを
書きました。何も考えず打っていたので「あれ?どこを目指して作ればいいんだ?」と結構時間がかかっちまいました。
そもそも土方さんってどんな感じだっけ?と「あさぎいろの風」を少しぺらぺら読んでしまった(そんなに記憶がないの!?)
そこでの土方さんと総司のやりとりが微笑ましくて新撰組熱が上がってきちゃいましたよ。長編が書きたいなぁ。
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