何が良くて何が悪かったのか。
今でもよく考える。
考え行き付く答えはいつも同じ。
あれでよかったのだ、と。
己の運命から解放されるには消滅しかなかったのだと。
みんなを、そして世界を守るにはああするしかなかったのだ。

そう、思うしかなかった。
そうでなければ報われない。

わかっていた。その考えは責任放棄した自分勝手な考えだと。

自分を責め続けた。
止めることのできなかった自分を責め続けた。
たとえ彼女が望んでいた道だったとしても、たとえ他に道がなかったのだとしても
止めるべきだったんだ。
世界なんてどうでもよかった。

だが、それは自分勝手な考え。押し付けることはできない。
だから、あれでよかったのだ。

今することは後悔することではない。
彼女が守ったこの世界を今度は自分が守ること。
転生した彼女の成長を見守ること。
彼女の幸せを祈ること。
それが自分の願いであり望みである。



















愛しき君へ



















ルーファスは場所を確かめるように一歩一歩地を踏みしめた。
久しぶりの下界である。
人々の笑い声、鳥の囀り、草花が風に揺れ匂いが鼻をくすぐる感じ、すべてが
懐かしい。アスガルドとはやはり違うとこの場にいて感じる。


(あの水車は、いつ来てもかわらねぇなぁ・・・)


まだ、ミッドガルで生きていた頃の話。
ドラゴンオーブを探してこの村に寄ったときのことだった。

『ゆったりとした感じの村ですね・・・。ここで生まれ、生活することができたのならきっと
毎日が楽しく暮らせるのでしょうね』
『アリーシャ?』
『あの水車はずっと昔からあるそうです。子供たちは小川で遊んで・・・。特別なものなんていらない、
毎日が平凡であることが羨ましいです』
『だったら、すべてが終わったらここに住めばいいじゃないのか?ここの村の人だったら快く仲間に
いれてくるだろうしな』
アリーシャはそうですねと言い微笑んだ。
その笑顔が、悲しそうな笑顔が今でも忘れられない。
親のことがある、シルメリアのことがある。
きっと、平穏な暮らしなんて一生迎えられないと思っていたのだろう。
今思えばあの表情がきっかけだったのかもしれない。
自分以外の神々に翻弄されている人物。
それ以前の同情しかなかった心の中に違う感情が芽生え始めた。

目が離せなくなった。目で追っていた。

それは今でも同じ。

神になった今でも・・・




水車から目を離し、道の先を見つめた。
そこには数年間会うことがなかった女性が一人。こちらに歩いてくる。


アリーシャ


今はアリーシャという名ではなかったが。前世の名だ。
その女性がルーファスの存在に気がついた。旅人だと思ったのだろう、挨拶して横を去ろうとしていた。
ルーファスはこんにちはとかぶっていたフードを少し持ち上げた。
その顔を見て女性は驚いた表情をした。

「あなたは・・・」

アリーシャが転生した後、たまにミッドガルドに降りてはアリーシャに会っていた。
しかしここ数年はミッドガルドに降りもしていなかったためアリーシャとは会っていなかった。
そんな数年ぶりの再会にアリーシャは驚いていた。
成長していないルーファスの姿を見て。


「どうして・・・」
ルーファスは微笑んだ。
「俺にとっては、時はあってないものだ。ずっと、ずっと見張られ、閉じ込められ
つらくて苦しくて・・・」
目を閉じる。精霊の森でのことを思い出した。死ぬことも許されなかったあの世界。
「でも、外の世界がもっとつらいとは知らなかった。アリーシャといることがこんなにも
苦しいとは思わなかった」
最初は変な奴としか思わなかった。だが、シルメリアの存在を知り、アリーシャの苦しみを知り、
いつの間にかほっておけなくなった。


好きになっていた。


その事実が苦しかった。
好きだと自覚した時にはすでに、神になることを決めていたから。
自分はアリーシャとは違う世界の人間だから。

それでも、好きだった。
アリーシャが暮らすミッドガルを守りたい。たとえ神にもなれず死んだとしても、
アリーシャだけは守りたい。幸せにしたい。

ルーファスはミュリンの指輪に目を落とし、ゆっくりと手を持ち上げて指輪にキスをした。
「俺は幸せだった。あの時には気づかなかった、ずっと自分の運命を呪っていた。なんで
こんなにつらくて苦しいんだって。でも、違ったんだ。俺がハーフエルフで、神の器だった
からキミに会えた。幸せだった」
シルメリアがいることがアリーシャにとって幸せなことだった。
自分はアリーシャがいることが幸せだった。


ルーファスは顔を上げアリーシャの顔を見た。どんな表情をしてるのかと。
いきなりわけのわからないことを言っているのだから、呆気に取られているか困って
いるんじゃないかと思った。
だが、どちらでもなかった。
真剣な面持ちで聞いていてくれた。


風が吹いた。
かぶっていたフードが取れて緑色の髪が風に靡く。
ルーファスは風に消されないように大声で言う。


「ありがとう!」


キミに会わせてくれてありがとう。
キミに救われてありがとう。


キミを・・・好きにならせてくれてありがとう。


ありったけの気持ちをこめて叫んだ。
ずっと言おうと思っていた。
感謝の気持ちを、あの時に言えなかった言葉を。
18歳という若きアリーシャに。


俺たちを救ってくれてありがとう。


ルーファスは踵を返した。
もうミッドガルに降りる気はない。これで最後にしようと決めていた。
アリーシャの幸せのために、これ以上干渉してはいけない。
一歩一歩前へと進む。


「私こそありがとう!」


後ろからの声にルーファスは立ち止まった。
「私を心配してくれてありがとう。私を守ってくれてありがとう。
私を・・・・・ユグドラシルの頂上に連れて行ってくれて、ありがとう」
先ほどより強い風が吹いた。どこから飛んできたのか、この村には咲いてないはずの
鈴蘭の花びらが風に舞う。


そんなはずはない。輪廻を重ねる度に記憶は消える。前世の記憶はないはずだ。


『俺が必ずユグドラシルの頂上につれてってやる』


覚えているはずが・・・
「こんな私と世界を救う旅をしてくれてありがとう」


駆け出していた。腕を伸ばしアリーシャを引き寄せる。
胸の中に収めて強く抱きしめた。


「アリーシャ、俺はキミを・・・」
風にかき消されたその言葉が、アリーシャの心の奥に響いていた。



END











あとがき

とある方に書いたものを再編集した作品です。なんか思ったより感動が薄れたような・・・(爆)
編集せずにそのまま貼り付ければよかった(汗)
ED後の話です。どうしても幸せにしてあげたかったので記憶がある設定を採用。
当初はなかったのですが成長するにつれて断片的に思い出していったという設定なのですが
本文ではそこを説明してないというダメっぷり発揮。もう、まかせとけ!(散れよ)
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