軍師革命



































「嫌です」
「どうして嫌なのだ」
呂蒙は一人の少女を追いかけていた。
「俺のこと好きだと言ったではないか」
少女はいきなり止まり振り向いた。
「好きです。お慕いしています。ですが呂蒙様・・・」
人差し指を立てて呂蒙の顔を指した。
「その髪型!髭!すっごく嫌です」
「そなたは人を顔で選ぶのか?」
「違います!私が呂蒙様の気持ちにこたえたのだって、呂蒙様の優しさや
気持ちがとても嬉しかったからです。ですが・・・」
「わかった。ではこの顔を何とかしてくる。はどのような顔が好みな
のだ?」
呂蒙は必死だった。やっと好きだった女と結ばれたのに、自分から去って
いかれては一生立ち直れないような気がした。
しかも年齢差がある。は、少女から女性へと変わる年頃であった。
そんな若い娘が自分のこと好きだと言ってくれたのは奇跡だと思う。
だから、多少のことは目を瞑りきいてあげないと、と思ったのだ。
「そうですねぇ、・・・周瑜様は素敵ですがあの顔だからこそあの髪型が
合っているわけで呂蒙様には似合わないし、あ、ここはバッサリ切って
陸遜殿あたりが・・・」
「陸遜だな。任せておけ」
が言い終るや否や、走り去っていった。


















3日後ーーーーーーーーーーー

最近呂蒙の姿を見ていないので、はとても心配していた。
もしかしたら呂蒙を傷つけてしまったかもしれないと、今更ながらに後悔し始めた。
とにかく呂蒙に会わないと、と思い、呂蒙の居室へと向かい走り出した。
この先を曲がった先が居室だった。は勢いよく角を曲がった。
その時、何かにぶつかった。
思ったより衝撃が少なかったので、おもわず見上げた。
「り、陸遜殿!」
そこに立っていたのは陸遜だった。受けとめてくれたおかげで衝撃も少なくすんだ
のかもしれない。
「ごめんなさい。私ったら不注意で・・・」

「は・・・い?」
少し首をかしげた。陸遜は今までと呼んだことはなかったし、声が少しいつも
と違ったのだ。
「陸遜殿、風邪でもひかれましたか?熱はございませんか?」
熱をはかろうと額に手をあてようとした。その時、急に腕を掴まれ、意外なことを
言い出した。
「俺だ、俺」
「俺!?」
陸遜は自分のことを俺と言ったことはないはずだ。だからビックリしておもわず声
も裏返る。
「呂蒙だ。こんな姿しているけどな」
「え?呂蒙様?どこにいるのですか?」
は辺りを見まわした。
「いや、そうではなく俺が呂蒙なんだよ」
「は!?」
が言ったではないか、陸遜が良いと。だから変えてきたではないか」
「・・・・・・」
先日のことを思い出した。確かに陸遜みたいにしろと言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッエっ!!!!」
「(遅っ!)」
「じゃあ、本当に呂蒙様なのですか?からかっているなんてことありませんよね?」
「本当だ。荊州南部にいる亮☆ショカツを知っているか?黒魔術で有名なんだ。そい
つにこの姿にしてもらったんだ」
「まあ、諸葛亮殿ってそんなすごいことできるんですね」
「違う違う、亮☆ショカツだよ」
「・・・・・・」



亮☆ショカツのことはとりあえずおいといて(諸『ヒドっ!』)一応、理想通りの呂蒙
となった。



最初は慣れず、ドギマギしたところもあったが、日もたつうちに慣れ始め、一週間も
すれば、いつも通りに接するようになる。

「はい、呂蒙様。孫権様からの書簡です」
「おお、いつもすまない」
「孫権様の下女ですもの。当然のことをしているまでです」
「あ・・・そのことについてだが・・・・・・・」
「はい?」
は首をかしげた。呂蒙が口篭もるのは珍しかったのだ。
「呂蒙様?どうかなされたのですか?」
は心配そうに呂蒙を見つめた。呂蒙は目を泳がせ何かブツブツいうと目を閉じた。

「はい」
「今の俺と昔の俺、どちらが好きだ」
目を開けをじっと見つめた。
「どちらと聞かれましても、呂蒙様は呂蒙様ですし・・・」
「どちらが、と聞いている。それ以外は答えず、結果だけを聞きたい」
もう一度小さくどちらがと言うと、それきり何も言わなくなった。

今の呂蒙と昔の呂蒙。

確かに、今の呂蒙は外見は陸遜そのものである。しかし、中身は変わっていない。
が望んだ通りの姿へと変えてくれたのだ。最初はこの顔に慣れず、陸遜とよく呼
んでしまっていたが、今はすっかり慣れてこの姿も良いかもしれないと思い始めていた。
その反面、でも・・・と思う気持ちもある。
「私は、昔の呂蒙様が好きです。ですが、私の為にこの姿になってくれた今の呂蒙様が
昔より劣っているというわけではありません。むしろ同等と思っています。私の我が侭
なために身を削ってくださったのですから」
「それでも、昔の俺がいいと?」
「その方が呂蒙様もいいでしょう?私は呂蒙様がしたいようにしてくださればそれでい
いのです。もう、それ以上は望みません」
は深々と頭を下げた。謝礼を述べ然るべき罰は受けるつもりだった。
考えてみれば、呂蒙はと比べものにならないくらい身分が高いのだ。は我が侭
を言って良い身分ではない。散々振りまわした挙句、やはり元の姿でも良いと言い出し
たのだから、さすがの呂蒙でも怒ると思った。

「では、今の俺でもいいか?」
「え?あ、・・・はい」
「実はな、この姿結構気に入ってたりするんだ。が嫌なら戻ろうと思っていたんだ
が、嫌ではないと言うし、この姿でいようと思うんだ」
は少し驚いた。まさかこの姿でいたいと思っているとは少しも思わなかったからだ。
また、さきほどの音に驚いたというのもある。呂蒙が言い終るな否や、部屋の外から
ドスンッ!とものすごい音が聞こえたのだった。
「あの、呂蒙様。今、ものすごく大きな音が聞こえませんでしたか?」
「え?いや、聞こえませんでしたよ。空耳ではないですか?」
「そうで・・・しょうか・・・」
あれだけ大きい音を空耳でかたずけるのはどうかと思った。だからその音が気になり、
呂蒙の異変に全く気づいてなかった。
「そんなことより・・・」
呂蒙は、をもっと近くにくるよう手招きした。
「先程の話の続きだが、殿の下女をやめないか?」
「なっ、突然何をおっしゃられますか」
「唐突だが、俺はおまえを娶いたいと思っている」
「えっ!?」
は一気に顔を赤く染め困惑した。
「あの、呂蒙様。私にはもったいないお言葉だと思います。ですが、まだ少し気の早い
話では・・・」
「そのようなことはない。あとはそなたの返事次第だ」
にはやはり気の早い話だと思えた。まだ16歳である。こんなことを考えたくはな
いが、まだ呂蒙とつりあう年齢ではないと思うのだ。さらに言うと、まだ孫権の下女を
始めて1年しかたっていない。やっと遣り甲斐を感じ始めたのにやめると言うのは考え
られなかった。しかし、今断ったら嫌われてしまうような気がした。それだけは嫌だ
った。
「呂蒙様、2つだけ聞いて下さいませんか?」
「ん、何だ?」
「あと2年待って下さい。年齢が年齢ですし、下女も辞めたくありません。大変身勝手
な話ですが・・・」
「2年・・・か。あと1つは?」
「私を、・・・私を嫌いにならないで下さい」
は俯きながら小さな声で言った。
呂蒙は一瞬目を丸くさせたが、やがて顔も緩みを抱きしめた。
「りょりょりょりょ呂蒙様!?」
「嫌いになるわけがなかろう。一生を好きでいる自信がある」
「呂蒙様・・・」
とても嬉しかった。この時ほど幸せと感じたことは、おそらく初めてだ、とは思っ
た。
呂蒙は好きでいてくれる、やりたいをやらせてくれる。こんなに幸せな平民は、私だけ
ではないのかとさえ思えた。


しばらくして呂蒙が話しかけてきた。
「この間の続き、しないか?」
そう言われしばらく何のことか考えたが、一瞬にして顔が赤くなった。

この間の続き。

そもそも呂蒙が陸遜の姿になったのは、私が髭や髪型嫌だったからだ。もとをたどると、
そう言う話になったのは、行為をするにも何を行うにも、髭が刺さったり、髪の毛が顔
をくすぐったりするから嫌だと言ったのだ。
そして今現在、その問題は解決されていた。
「い、いや、まだ朝方ですし・・・」
「朝だといけないという規則があるか?」
「いえ、ありませんが」

ズドン・・・ゴゴゴゴ、ガラガラ、ちゅどーーーーーーん!!!!!

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「聞き間違えですか?」
「途中で話をそらないでもらいたいのだが・・・」
更にこの部屋を激しく叩く音が聞こえた。開けようと試みたが開かなかったらし
く、今度は蹴破ろうとしているらしき音が聞こえてきた。
「りょ、呂蒙様、開けてあげては・・・」
「必要ありません」
「しかし・・・」

続きを言うことができなかった。言うはずの口がふさがれていたのだ。
突然の出来事に思わず目をぎゅっとつぶった。しかしそのせいで意識はそこに集中して
しまった。何度も何度も角度を変えて口付けをされ、いつもと違う感じがした。
呂蒙はこんなんじゃない。違う。
は呂蒙の胸をドンドンと叩き、離れた。
息をハァハァときらしながら呂蒙を睨みつけた。
「誰ですか!あなた、誰ですか!」
「急に何を言い出すのだ、
「いつもと違うんです。・・・・・呂蒙様は、・・・呂蒙様はこんなに、上手く・・・
ありません・・・」
おもわず語尾が小さな声へとなってしまった。
相変わらず顔を紅葉させる。
その姿を見ておもわず、呂蒙は笑い出した。


「呂蒙さ・・・ま?」
「いや、そうですか。呂蒙殿はそれほどうまくないのですね、殿」
突然しゃべり方が変わり、声も変わった。
この姿、声、しゃべり方・・・。
「陸遜・・・殿」
「ご名答」
呂蒙もとい、陸遜は笑みを浮かべて近くにあった椅子にへと腰掛けた。
は、何がどうなっているのかわからなかった。今目の前にいるのは呂蒙ではない。
それは今日だけの出来事だったのだろうか。いつから、という考えが頭の中にある。
このぐちゃぐちゃした頭の中を一生懸命整理し、振り絞ってやっと口から言葉が出た。
「どうして・・・」
「さあ、どうしてでしょうね」
「聞いているのは私です。答えて下さい」
「では、聞きますが、今どうしてということを聞いたところで何かなりますか?私は
1週間前から呂蒙殿と偽ってきました。そして貴方は私に好意を示し、私でも良いと
言った。それは、変えることのできない事実です。聞いたところで、何か変わるとも
思えませんが」
確かにそうだった。聞いたところで事実が変わるわけではない。でも、どうして、と
聞かずにはいられなかった。
はどうしたらいいのか分からず、ただ陸遜を睨みつづけていた。

「そんなに聞きたいのですか・・・」
陸遜はしかたありませんねとため息をつき、扉の方へと視線を向けた。
「では、本人から直接聞いてください」
「本人・・・・・って」
も扉の方を向いた。
その瞬間扉を蹴破ろうとする音が激しくなり、ついに扉は前へ倒れた。
はそこに立っていた人を見て驚いた。

呂蒙だった。
髪型も髭も姿も以前と何ら変わっていない呂蒙がいた。

「陸遜!!」
呂蒙は陸遜の方へズカズカと近づき、襟首を掴み無理やり立たせた。
「どういうつもりだ!」
「何のことでしょうか」
「惚ける気か?何故外にあんな仕掛けなんぞ作りよった」
「ああ、アレですか。決まっているではないですか。邪魔者を排除するためです」
陸遜は笑みを浮かべながら呂蒙をじっと見た。
呂蒙の顔はみるみるうちに赤くなり、怒りをあらわにした。
「俺が邪魔者とでもいうのか」
「他に何者でもないでしょう?」
陸遜はそれよりも、との方へ視線を向け言った。
殿に弁解しなくて良いのですか?突然入ってきてその姿を見せたのですから」
「・・・・・?」
呂蒙は振りかえった。そこには驚いて固まったままのがいた。
この空間にしばらくの沈黙がおとずれた。
呂蒙はしばらくを凝視した後、突然大声をあげた。それと同時に掴んでいた陸遜の
襟首を離した。
「な、ななななななぜがここにいるんだ!」
今の叫びでは、固まっていた身体がほぐれた。聞きたい事が次々と溢れてきた。
「質問したいのはこちらです。なぜ呂蒙様が私の目の前に現れたんでしょうか」
思ったより激しい問いかけではなかったので、呂蒙は少し安心した。
しかし、それは外見だけの話での中にはドス黒い怒りの渦がうごめいていた。
「あ、あのな・・・、実は・・・」
「実は呂蒙様の提案で、陸遜殿と入れ替わっていたというオチだとは言いませんよね」
はとびっきりの笑顔で尋ねた。
呂蒙は背筋がゾッとするような悪寒にみまわれた。こんな笑顔で質問してきているのに、
何故こんなに恐ろしいと感じるのか。
「と、とにかくおち、落ち・・・」
「呂蒙様が落ち着いたらどうですか?自分何も悪いことはしていないんでしょ?」
この時ほど逃げ出したいと思ったことはなかったという。



数分後、とにかく謝り続ける呂蒙がいた。
真相はというと、呂蒙は亮☆ショカツの黒魔術を頼りに訪れたら術に失敗し(諸『今日
は気が乗りません』)1つの提案が出された。
演じればよい。
つまり、陸遜が呂蒙を演じればいいのだ。
その提案にのり、陸遜に3日間、呂蒙の全てを叩きこみ(強制)のもとへ投入した。
しかし、それだけでは何の意味もない。そこまでするのには理由があった。
呂蒙のふりをした陸遜に慣れずにいるに、前の呂蒙に戻ってほしいと言わせること
だった。心の底から自分を好きになってもらうための策略だった。
いくら陸遜が呂蒙のマネををしているといっても所詮、偽者は偽者である。
いつか不満がつのるだろうと思っていた。
ところが、1週間過ぎたのにもかかわらず、不満どころか、慣れ始めてしまっていた。
だから今、陸遜のところに行き、どうなっているのか確かめにきたのだった。

「本当に悪かったと思っている」
「・・・・・」
「怒っているか?」
無言だったので呂蒙は恐る恐る聞いてみた。
「怒ってません」
呂蒙はそれを聞いた時ほっと安堵したが、また強張った顔つきになった。
「悲しいです」
「悲しい?」
「呂蒙様は私のこと、信じてなかった」
ハッとした。そうだった。が本当に自分のことを好きなのか確かめるために行った
行動だった。が好きだといってくれていたのにもかかわらずだ。
どこか、少女というところで信用性に欠けると思っていた。実際、から呂蒙を求め
たことは一度もなかった。
「それは・・・!!」
「陸遜殿は信じて私は信じられないんですか?」
「陸遜は私の部下だ。信じて当然ではないか」
「部下なら信じられるのですか!裏切らないのですか!」
は涙を浮かべた。
「なら陸遜殿とくっつけばいいのよ。この馬鹿軍人!!」
ずっと黙視していた陸遜は思わず咳き込んだ。
は走って部屋を飛び出していった。

「追いかけなくてよろしいのですか?」
しばらくの沈黙の後、陸遜が言い出した。
「言っておきますが、私、貴方の妻になる気ないですからね」
「当たり前だ!!」
息をきらしながら大声をあげた。
「貴方が追いかけないのなら私が追いかけますが」
「おまえが追いかけたところで何になる」
呂蒙はその場に座りこみ、陸遜にも座るよう促した。

「さて話してもらおうか」
「何のことでしょうか」
に何をした」
とぼける陸遜に怒りをおぼえたが、ここで冷静さを保らないと話にならなくなってし
まうので、抑え気味に問いただした。
「何をと言われましても、呂蒙殿の真似をしていただけですが」
「私を裏切る行動を起こしたのだろう?」
しばらく睨みつけていたが、突然陸遜が笑い出したので抑えていた怒りが爆発した。
「何がおかしい!!」
陸遜は一通り笑い終えると立ちあがり、呂蒙の耳元で一言呟いた。
「貴方の口付け、下手なんですってね。殿嘆いてましたよ」
呂蒙は目を見開き陸遜を見たが、陸遜は目を合わさず、部屋から去っていった。






      

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