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会議室から合図があり部屋へと入る。頭を下げ、陸遜は孫権の前へ行き直立した。

部屋には孫権と周瑜しかいない。


「さて、報告を受けよう」


陸遜は任務を受け賜っていた。

今日の朝、会議前、呂蒙と話していたところに孫権が来て呂蒙には料理を届けさせた。

呂蒙が去ったあと孫権がの民政適性検査を頼んできたのだ。

なぜ呂蒙ではなく陸遜に頼んだかは簡単である。

私情を挟まず他人の目から見てはどのくらいの力量か知りたかったのだろう。

自分が育て上げたと言っていいくらい、孫権はにあらゆる事を教えてきた。

だからこそ他人の意見を聞きたかった。ここで他人に認められれば、自分の腕も確かなもの

だと言われたも同じだからだ。


「想像以上です。国全体を考えていますし、自分の意見も持っています。文官として十分

やっていけるのではないでしょうか」

「そうか」

冷静に答えていたが顔は嬉しそうだった。


「殿を唸らせるほどの人材がいるのですか?」

周瑜が言った。どうやらの存在を知らないらしい。

「私の下女の中にという者がいる。読み書きができてあらゆる民政ができるのだ。

教えたものはすぐに吸収する。私はの能力をこの国のために使えないだろうか、

と考えている」

「お言葉ですが、殿。下女には下女の仕事があり、身分があります。その者を民政官なぞ

にしてみなさい。周りは黙っていませんよ」

「誰にも文句は言わさせない」

孫権の真剣な顔を見て周瑜は溜息をついた。

つまりは、何が何でもを民政官にしたいのだろう。反対したところで取り合ってくれない

のがおちだ。

それほどまでにという人物が能力高い者なのか、あるいは孫権がに想いを寄せて

しまったのか。どちらにせよ、頭痛の素がまたできてしまったと周瑜は頭を抱えた。


「わかりました。誰かの下に置くこと、下女の仕事を続けること、この二つ条件で私が何とか

周りを押さえこみましょう」

「本当か?すまない、周瑜」





この話はまた後日となり孫権が退室するのを見送る。


「陸遜、明日私の執務室にとやらを連れて来い」

「明日、ですか?ずいぶんと急がれるのですね」

「少し立て込んでてな。そのことについて今日はお前達を呼んだ」


廊下に合図を出し、凌統が入室する。

会話もそこそこに早速本題に入る。

「今日の会議で何を話し合ったか知っているか?」

呉国の未来についてでしょうかと凌統が答え周瑜は頷く。

「赤壁での戦で防衛に成功した我々は、このまま内を固め安定させ、しかる後に外へ出るか。

それともこの勝利に乗じて、曹操の傷が癒える前に外に出るか」

「しばらくは曹操も動くことはないでしょう。ならば今のうちに外に出るのが上策かと」

陸遜が言うと周瑜は頷きながら答える。

「さすがだな陸遜。全くもってその通りだ」

「からかわないで下さい。誰だってそう思います」

少し不機嫌になりつつ言い返すと周瑜は困ったように話し出した。


「それがな、内を固めろという意見もあるのだ」

馬鹿な!!と大げさに凌統が反応するとおもわず、陸遜も周瑜も苦笑いした。

「しかし、周瑜様は外に出ようという意見を通すのでしょう?」

周瑜は赤壁の戦いでも、降伏派の意見を押さえ曹操と戦うことを主張し意見を通した。

決定権は孫権にある。周瑜を兄のように慕う孫権ならば反対するわけがない。

そして、この2人は亡くなられた孫策様に内を固めたら外に出ろと言われたことを

陸遜は周瑜から聞かされていた。

だから、外に出ること周瑜は主張するだろうし、孫権も認めるはずだ。


「確かに意見はすでに殿と一致済みだ。次の会議で決定が降されるだろう。

しかしそれはそれで問題が出てくる」

周瑜は会議で使用していたであろう地図を広げだし荊州南部を指した。

「ここには誰がいる、凌統」

「劉備殿ですね」

「そうだ。ではこの地は?」

中原を指し問う。

「曹操」

周瑜は頷き最後に江夏郡を指した。

「そしてここが我々の新たな土地だ」

「そうか、わかりました。つまりは江夏へと進軍し、不安因子の排除に行く、

そういうことでしょうか」

凌統が納得するように答えると、周瑜は頷く。


荊州には今、役人と八千ほどの兵士を滞在させていた。荊州の中には孫呉の侵入を快く思わないものがいるはずだ。

それをあぶりだすため、わざと兵を少なくしそれを率いる将も名も知らない者をあてさせている。

圧力を強くするとかえってひっこんでしまうのだ。

勝てない相手に戦を挑むものなど豪族の中にはいない。


今、数名の豪族の名が上がっている。

つまり、その者たちは呉軍八千に勝てると確信した不安因子だ。


「私が五千ほどの兵を率いて荊州に行こうと思っている」

一万三千か、と凌統が呟いた。相手の兵数が分からない分、妥当な兵数だと思える。

しかし、どこか引っかかると陸遜はもう一度地図に目を落とした。



南には劉備、北には曹操、そして西に劉璋。

荊州南部は劉備が力を溜めるためと貸し与えた土地だ。力が大きくなればいずれ孫呉を脅かす存在となるだろう。

では、どうするべきか。

揚州と荊州には長江が流れている。南船北馬というように、呉国では船で移動することが多い。

川はいわば道のようなもので長江は呉になくてはならない存在だ。

長江の先には何があるか。

目で辿ってみると一つの国でとまる。

もう一度全体に視野を広げ地図を見て先ほどの国をもう一度見る。


ハッとした。まさかと思い、頭の中で仮説通りことをはこばせた。

一つの言葉へと辿り着く。

周瑜が本当にそのことを考えているのであれば、歴史は大きく動くことになる。




「天下」




口にしてみた。あまりにも壮大すぎてしっくりこない。凌統も突然陸遜が天下と言い出して呆けていた。


「天下取りに行くのですか?」

「見えたのか、陸遜」

「はい」

周瑜はそうか、と呟くと地図を見つめ語りだす。

「戦に勝ち、初めて見えてきた道だ」

「では、やはり」

「まずは天下二分」

「益州さえ領してしまえばあとは流れのままです」

話の筋がみえないのか、凌統は周瑜と陸孫の顔を交互に見ていた。


つまりはこういうことだ。

南は劉備、北は曹操と挟まれた荊州江夏郡はつねに緊張状態にあることになる。

劉備が力を溜め込めばいずれ北に進出してくるだろうし、曹操も体制が調えば再び大軍を率いて南下してくるだろう。

では我々はどうすればいいのか。


益州を取るのである。


劉備たちが生き残るには益州を領土に入れるしかない。だからであろう。荊州の土地を与えてからというもの、ものすごい速さで

南部を押さえ力を溜めていた。

しかし、孫権が今取ってしまえば益州、荊州、楊州と三州を制することとなり天下が二分される。

そして益州を攻略するだけの力が孫権にはある。

どんなに劉備が急いで力を溜めようと間に合わないのだ。


益州攻略の間に曹操が攻めてくることはまずないだろう。大敗した曹操には南を攻略するほどの力はまだ回復してないからだ。

仮に攻めてきたとしても、最強の水軍がいる限り曹操は南を攻略することは皆無に等しい。


天下が二分されればあとは力比べのようなものなので、曹操に勝てる確立は充分にある。天下統一も夢ではない。




周瑜は一通り説明し終えると、二人を交互に見て顔を綻ばせた。

「本当に成長したものだな二人とも。これで心置きなく孫呉を任せられるというものだ」

「任せる、とはどういうことです?」

陸遜が問うと周瑜は咳払いをし、真剣な面持ちで言った。


「此度の戦、二人のどちらかを連れて行くつもりだ。それを告げるためにお前たちを呼んだのだ」

二人は息を飲んだ。一方は連れていってもらえるが、一方は残される。

要するに周瑜に認められた方が選ばれるということではないのか。

二人の間に冷たい空気が流れる。






「凌統、お前を連れて行く」

陸遜は目を見開いた。選ばれる自信があった。凌統と比べればどう考えても己の方が能力高いはずだと自負していたのだ。

だが、選ばれなかった。

隣りで喜んでいる凌統を見て腹が立った。自分が見下されたように感じる。

「納得できません。何故凌統なのですか。確かに力は少し劣るかもしれません。ですが、その他の能力なら

全て凌統より勝っているつもりです!!」

「そうだな」

あっさり肯定され理解できないでいた。自分の力が認められたのに何故選ばれないのか。


「陸遜。お前は本当によく成長した。凌統より優れている。今日のお前の解読はなかなかのものだ」

「では何故!!」

「だからだ。お前にはここに残ってもらい殿を、呉を守ってほしい」

「理解しかねます。この国には私より優れた方々が大勢いるではないですか」

頼むべき相手を間違えている。甘寧がいる、呂蒙がいる、韓当、黄蓋、旗本の周泰。

頼むべきものはこういう方々ではないのか。


当然のごとく反発すると周瑜は腰にあった剣を鞘ごと陸遜に渡した。

「こ、れは?」

「甘寧は同じく荊州に行くことになっている。呂蒙には南の守りと荊州長沙郡の睨みを任せるつもりだ。

黄蓋将軍たちには新兵の訓練で忙しい。では内側は誰が守る?」

「内乱でも起こると言われるのですか」

「勇将が内側にいなくなるということは、それだけ隙も見えてきてしまう。

お前なら言いたい事も分かるだろう?」


呉には異民族が多く住んでいる。特に山越族が多く、反乱もよく起こる。

陸遜自身も鎮圧に赴くことが多かった。

今は孫権に忠誠を誓っているがいつまた裏切るかは分からない。

周瑜はそのことを危惧しているのだろう。


「その剣で私の代わりに殿を守ってくれ」

陸遜は剣に目を落とし強く握りしめた。







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あとがき
主人公名前のみ登場です。全然夢小説っぽくない話ですいません。今回説明が多い感じでしたが、次回
今回の話の通りに新展開あり。呂蒙、陸遜、による三角関係(?)にも進展を効かせたいのですが
うちの趣味もあり凌統出す予定です(爆)
最後に一つ。兵数や武将の配置は正直適当です(爆)甘寧は夷陵攻めの後何処行ってたんっすか?もしかして
凌統とともに皖城か?呂蒙はこの時期もしかして勉強中?陸遜も曹操追撃後どうしてたのか?まったく分からん
です。あんまり深く考えないで下さい(汗)
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